TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
装輪(タイヤ式)の装甲車は使い勝手の良い車両だ。防弾・装甲化された車体の内部に多くの人員を乗せ、高速で走行、自在に移動することができるからだ。泥濘地などでは装軌(キャタピラ式)車両に劣るものの、オンロード/オフロード問わず高い走破性を見せる。
陸上自衛隊にも隊員が信頼を寄せる装輪装甲車がある、96式装輪装甲車だ。1996年に制式化されて導入、現場部隊ではもう25年も使っている。
製造は小松製作所。車体全面に装甲が施され、防弾能力は非公開だが、装甲車だから小銃弾や砲弾の破片などであれば充分防ぐことができる。心臓部の水冷4サイクル6気筒ディーゼルエンジンが出力する360馬力と8本のタイヤでグイグイ走る。高速走行を得意とし、舗装路での最高速度は約100km/h。8輪タイヤはコンバットタイヤと呼ばれる防弾処理等の施されたものを履いている。これは銃撃などで数本がパンクしたとしても、ある程度の距離なら自走可能な性能を持つものだ。走りの良い装甲車だといえる。
96式装輪装甲車は部内で、96WAPC(きゅーろくダブリュエーピーシー)やWAPC、さらに縮めてAPCなどと呼ばれることが多い。同じ制式年の車両や装備がその現場になく、通じやすい場合はもう単純に「96」とごく短くして会話することもある。「クーガー」という愛称はあるが防衛省の広報活動時に登場するくらいで、現場でそう呼ぶ隊員はほとんどいない。
WAPC とは、Wheeled Armored Personnel Carrierの略語で装輪装甲車を意味し、APCで装甲兵員輸送車を指す。これらの車両は根拠地などから目標地域・前線への移動(作戦機動)や、敵の脅威下にある地域や最前線での行動(戦場機動)で、兵員を装甲ボディで守りながら活動する車両を指す。
陸自では96WAPCを全国の普通科部隊を中心に配備している。普通科とは諸外国軍でいう歩兵、つまり前線兵士の足として使うことを想定している。
加えて戦車部隊である機甲科の一部や、火砲・ミサイル部隊の特科、土木・建設部隊の施設科などにも配備されている。特科では指揮官車として、施設科では70式地雷原爆破装置を積んだ地雷原処理車として、それぞれ使っているという。
戦闘中に負傷者が発生した場合を想定して、96WAPCの広い車内を使い、負傷者を担架ごと収容し、後方へ搬送する運用も行なう。救急車では進入できない最前線で負傷者を後送する使い方にも適しているわけだ。こうして職種をまたいで配備されていることから、使い勝手の良さや汎用性の高さがわかる。
96WAPCにはいくつかのバリエーションがある。車体上の銃架に96式40mm擲弾銃(グレネードランチャー)を装備するA型、12.7mm重機関銃を装備するB型だ。加えて、後付けで追加装甲が取り付けられる「Ⅱ型」が存在するという。グレネードランチャーは目標の面制圧、重機関銃は前進する普通科を支援する強火力ということだ。歩兵とともに最前線を駆け、火力で支援する。
運転性や車内居住性に目を移すと少し面白い点がある。我々が外から見ているだけなら、96WAPCのフォルムはスクエアでスマート、大柄ではあるが運転しやすそうに見える。しかしやはり大型車両であるだけに死角は多く、操縦手からみると視界が狭く見切りも悪く、したがって死角も多数発生するのだという。
これをフォローして安全に走るため96WAPCの車長や分隊長などは車両上部のハッチから上半身を出して全方位を注意しながら走るという。これは一般道や演習場内の走行、季節を問わず常に行なわれており、真冬の高速道路走行時でも警戒役の隊員はハッチから体を出し寒風に晒される。たいへんツライという。
一方、車内の居住性はというと、96WAPCの内装は内張が施されている。色は白。ゴツイ装甲車の内装色がホワイトというのが面白い。各ハッチを閉めると静粛性も上がるのだという。そして広いので、少人数ならば車内で数日すごすこともできるのだそうだ。広く静かな車内環境は、車中泊にも適しているようだ。
四半世紀も使った96WAPCの後継機種について防衛省は、本車の改良版となる「装輪装甲車(改)」を計画、開発した。その特徴は付加装甲を後付けできるようにし、用途や任務に合わせて増強可能とするもの。動力性能や走破性、輸送性も高め、素早い全国展開を可能とする。車内から遠隔操作する火器架台「RWS(リモートウェポンステーション)」などの設置も予定されるという。2017年には試作車が公開され、現在も各種の試験を重ねているようだ。