TEXT &PHOTO◎伊倉道男(IKURA Michio)
吾輩は米軍の弾薬ケースである。軍用の弾丸入れなので、ある程度使われると放出品となり民間に売られてしまう。そこから第二の人生が始まることになる。昔なら、カセットテープ入れ、CD入れにもなっただろうか。今、吾輩の仲間達はどんな第二の人生を生きているのだろうか。
吾輩は焚き火ボックスとしての第二の人生を送っている。昔の職場だとスズキ・ジムニーが陸の空母に当たる。カナディアンカヌーやら、2馬力のゴムボート、折り畳み自転車などと、愉快な仲間達とアウトドアへ出掛けている。アウトドアやサバイバルを一番多く経験しているのは、吾輩である。
平和なアウトドアでは、弾丸入れは必要とされていないので、吾輩も改造されてこのチームの仲間となった。薪を燃えやすくする為に、サイドに空気導入のスリットを入れられた。そしてメッシュの素材のロストルを装備して、焚き火ボックスに生れ変わった。同じメッシュの素材で、五徳を装備したので、調理への貢献もしている。だが、最も愛されているのは、ゆらゆら揺れる炎を楽しんでもらっていることだと思う。
現役時代は、オリーブドラブの国防色に塗られて過ごしたが、この塗料は耐久性はあるが熱に耐えるものではない。しばらくはそのままで、炎を楽しんでもらったが、塗料は燃えてしまい、いささか錆も進んできた。そこで全塗装をされることになる。
どうやら市販の耐熱塗料には、吾輩の元からの色、オリーブドラブは存在しない。選択はブラック、シルバー、チタンカラーぐらいしかないようだ。「チタンカラーが良い!」と吾輩は主張したが、無難で明るめのシルバーとなった。
問題は塗られる順番である。まず、ナンバーもなく、ブレーキランプスイッチの不調で格納庫に入りっぱなしのバイク、ビモータSB6のブレーキパットの台座から塗られる事になる。その次が吾輩だ。余ったら、スズキ・ジムニーのマフラーのエンド部分とされている。スズキ・ジムニーなんか、ろくにマスキングもされずに、シュッと塗られることになる。
ここで今の吾輩の同業者の焚き火台の役目について説明をしておこう。かなり昔のキャンプでは、河原で石を集め、砂浜では穴を掘ってかまどを作った。そこで調理や炎を楽しんだ。だが、ほとんどの人がそのままかまどを片付けず、帰宅する。するとキャンプ場や野営地はあちらこちらにかまどの跡。それも中に燃えかけの炭や、ひどい話ではあるけれど食材の残りが入れていたり、不燃物も入れられたままとなっていたりすることが多い。吾輩はかまどの跡に、ヘッドランプのバルブが入れられていたのも見たことがある。また、クルマで広場を移動する時にクレーターを避けるように「あっと、右へ、そこ左のかまどに注意!」となる。美的感覚だけでなく、せっかく自然の中へやって来たのに、最初から気分を害してしまう。「来た時よりも美しく。次の人の楽しみのために」そんな日本人の心はどこへ行ったのだ。おっと、吾輩は米軍の放出品、れっきとしたアメリカ国籍だ。そんな吾輩がそう思うのである。
そこで、現在は見た目以外にも、自然の生物にローインパクトなキャンプが主流になる。焚き火台を利用したり、薪ストーブを利用する。焚き火台の下には難燃性のシートを敷く人も多い。溶接用のスパッタシートを利用すれば良いが、焚き火台シートと言う名称で今は市販品も多くある。
吾輩は金属製のテーブルの上にレンガを置きその上に乗ることになる。レンガは熱を伝えない事も重要な役目であるけれど、高さを出す事で炎の楽しみは間違いなく増える。たとえば南国のリゾートにあるガストーチ。高い所で燃えているだろう。それに近ければよりエキゾチックな夜になるはずだ。
吾輩を中心にどんなキャンプシーンをこれから演出していくか。新しい仲間を増やしていきたいものだ。スズキ・ジムニーのルーフには木製のカナディアンカヌー。テントは米軍のパップテント。オリーブドラブのローコットも、コットン素材のローチェアも欲しい。いつかそんな仲間達と2〜3泊ほど掛けて、のんびりと那珂川を下ってみたいと思うのである。