REPORT●近田 茂(CHIKATA Shigeru)
PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
取材協力●株式会社 スズキ
Suzuki Oil Cooling System (スズキ・オイル・クーリング・システム)の略称。
ざっくり言うとエンジンの冷却方法は空冷方式と水冷方式がある。これまた簡単に言うと、普通のエンジンは空冷でも十分に冷却を賄うことができる。一方高性能を追求すると、水冷方式が必須となる。
SOCSは、エンジンの燃焼室周りにオイルジャケットと呼ばれる冷却用回路を設け、そこにオイルを通す事で冷却を担う「油冷」方式である。潤滑とは独立して、冷却を目的とする別回路が追加されており、オイルクーラーで冷やしたオイルをオイルポンプによって速い速度で循環させている。
SOCSはズバリ、スズキが開発した最新のオイル冷却システムの呼称である。
潤滑オイルの噴射部位と吐出量、そして流速を高めた古き油冷システムとは決定的に異なっており、潤滑とは別に冷却を目的とする独立した回路を設けた点に違いがある。
エンジンが燃焼爆発するタイミングは、ピストンが上死点付近にある時で、発熱はスパークプラグ周辺からシリンダーヘッド(燃焼室)全体に及び、上死点域のピストンクラウン周辺シリンダー部への影響も大きい。
その部位を効果的に冷却するため、ぐるりと専用オイル通路が設けられている。ヘッド部やシリンダ周囲(頂天部)に設けられたオイルジャケット壁面の中には、バウンダリーレイヤーブレーカーと呼ばれる凹凸の突起が作られ、あえてオイルの流れを乱すことで熱伝達を向上させ、冷却効率が高められている。
●補足
ジクサー250に求められたのは、環境性能の高い省燃費性能に優れたエンジンであり、フリクションロスの低減化が徹底追求されたSEP(SUZUKI ECO PERFORMANCE)エンジンである。
いわゆる超高性能タイプではないが、10.7対1と言う、それなりの高圧縮比と太く柔軟な高トルクを稼ぎ出しており、安定した冷却性能を求めてSOCSの開発に帰結したと言う。
つまり水冷に頼る程ではないが、空冷では、使い方によっては冷却不足が懸念される。そこに程よく機能してくれる新アイテムとして油冷が再登場したと言うわけだ。
考え方としては決して驚く程の技術ではないが、巧妙なオイルジャケットを設けたシリンダーの量産化を実現した製造技術の高さは侮れないのである。
またユーザーにとっても、空冷では得られない高性能と耐久性に対する安心感が得られる。しかも基本的に密閉構造のオイルラインとオイルクーラーが装備されただけなので、水冷の様なメンテナンスを必要としない点や、コンパクトでローコストに仕上げられた点が見逃せない魅力となるのである。
●用語解説こぼれ話。
油冷エンジンと言えば、1985年にデビューしたGSX-R750を思い出す人も少なくないだろう。高性能エンジンはどんどん水冷化されていた時代に登場したSACS(Suzuki Advanced Cooling System)は異色かつ合理的(軽量)な方式として話題を呼んだ。発表会当日開発責任者は、真夏のある日の話として「庭で勢いよく出る水道水に手を当てて涼を得る光景から閃いた」と、油冷エンジン開発に関する逸話が紹介された。後に筆者はこれが実話か、作り話なのかを発言されたご本人に尋ねたことがあるが、笑顔だけで返された事が思い出される。(^_^)