しかし、リタイアの文字が目の前にぶら下がり、世間一般には「おじいちゃん」と呼ばれても仕方ないトシになってくると、「これから」の生き方が俄然、リアルに迫ってくる。そんなことを意識して、自分のキャラクターと生き方を勘案しつつ、あらためてクルマを選んでみるのも悪くないだろう。
無論、年齢や性別などで乗るクルマを規定するなどナンセンスなのだが、やはり世の中、TPOというものがあるらしい。どんなに功績を上げていても、まだまだ仕事が出来ようとも、いかに功徳を積んでいようとも、ある一定の年齢を超えた時には自動的に若い世代から「老害」認定されてしまうご時世だ。
かくして行き当たったのが、「出過ぎず、埋もれず」というキーワード。とは言え、これは決して「中庸」とか「平凡」といった意味ではない。具体的なキャラクターとして、ふと思い浮かんだのは、惜しくも亡くなられた女優の樹木希林さんだ。樹木さんと言えば、トヨタ・オリジンを愛用されていたことで、一部には有名だった。そうだ、トヨタ・オリジンなんかどうだろう…?
トヨタ・オリジンは2000年に発売された「完全限定車」だった。とりあえず「1000台限定」である。一般に「小さな高級車」を標榜して1998年に登場したプログレをベースに、初代クラウンをイメージしたパイクカー的な言われ方をするが、ただそれだけのクルマではない。
もともとのプログレ自体、当時の技術開発責任者である和田明広副社長がこだわりつづけた「クルマ創り」の集大成であり、おそらく当時のトヨタの「プレミアム」の粋であった。後に和田さんから伺ったが、プログレは決して不人気でも売れなかったわけでもなく、2001年に発売した姉妹車のブレビスと食い合ったのが直接の敗因である、と。これ以上、ブレビスの話を書くと一冊出来てしまうので、今回は(?)ここまででやめておこう。
さて、オリジンはプログレと同様に、今なおトヨタの最上級リムジンとして君臨するセンチュリーの生産ラインを担当する、マイスター・レベルの熟練工が製造を担当し、ほぼハンドメイドで造られているという恐ろしく贅沢なクルマなのだ。プログレやブレビスは「小さなセルシオ」などと呼ばれたが、実はオリジンは「小さなセンチュリー」なのである。
「1000台限定」ということと、当時のセルシオ(UCF20後期C仕様Fパッケージ)より高かった車両本体価格700万円から考えれば、中古車もさぞや…と思って調べてみると…。2020年12月28日現在、14台がみつかりましたが、あらまぁ、お値段も意外とお手頃。そのうち「300万円以下」のルールに従うと5台もあります。
オリジンにはベースグレードしかありませんから、グレード選びに悩む必要はありません。また、スタイリングがスタイリングなので、誰もジャコタンにしようとかエアロつけようとか思いもしないので、ヘンな改造車が中古車市場に出回ることもありません。基本的にはいずれもワンオーナー大事に乗られてきたものが多いようです。
これなら「おじいちゃん」が運転していても、「出過ぎ」でもなく、かと言って「埋もれる」わけでもない。センチュリーを自分で運転するのはちょっとヘンですが、オリジンだと運転手が運転しても良し、自分で運転しても良し、ですね。
ルール違反かもしれませんが、もう一台、気になるクルマがあります。それはやはりトヨタが1996年にたったの100台(!)、限定受注生産したトヨタクラシックです。
トヨタクラシックはトヨタの市販車生産60周年記念車で、なんと5代目ハイラックス(80/90/100/110系)をベースにしていますが、ほとんど面影が残っていないというシロモノ。
トヨタの特装車を担当していたトヨタテクノクラフトが製造を担当し、これまた熟練工によるハンドメイドで造られました。当時の販売価格は実に800万円(!)。そのほとんどが長崎県のテーマパーク、ハウステンボスが送迎用に購入したと言われています。
これも気になって調べてみたら…。
こちらも2020年12月28日現在、5件みつかりました。そのうち300万円以下のルールに当てはまったのは3台。こちらも今が狙い目なのかも? まぁ、オリジンよりクラシカルなスタイリングなので、自分で運転する場合には、乗り手を選ぶかなと思います。
でも、今の自分の経済状態で実際に買えるとしたら、中古のクライスラー・PTクルーザーなんでしょうねぇ…。