いっぽう、レーシングエンジンや一部の高性能エンジンでは、砂型を使った鋳造が行なわれている。
この砂型とは、特殊な砂に樹脂を混ぜてつくった型だ。シリンダーヘッドのような複雑な形状を成形するには、「中子(なかこ)」も砂型で作り、組み合わせて砂型とする。砂型は金属型と違ってアルミ溶湯がゆっくり固まるため、複雑な形状や薄い壁状の部分を鋳込むのに適している。
マツダは量産自動車メーカーとして世界でただ一社、シリンダーヘッドをすべて砂型鋳造で作る。ガソリン1.5ℓ直4エンジンのSKYACTIV-G1.5も、2.2ℓ直4ディーゼルのSKYACTIV-D2.2も、最新のSKYACTIV-Xもシリンダーヘッドは砂型鋳造で作られるのだ。
マツダ独自の砂型鋳造技術はAPMCと呼ばれている。Advanced Precision Mazda Casting processの頭文字をとった手法で、そのルーツはコスワースDFVに遡る。F1などのモータースポーツ用エンジンとして一世を風靡したコスワースDFVは名機中の名機である。マツダはフォードと資本提携していた関係からコスワース鋳造と呼ばれる砂型鋳造を学んだ。
2001年にマツダとフォードは共同でコスワース鋳造を開始、マツダはこれを独自に進化させたわけだ。
2013年に取材したときも、もちろん高精度な砂型鋳造ですべてのSKYACTIVエンジンのシリンダーヘッドは製造されていた。
2020年に『MFi特別編集マツダの最新テクノロジー』(12月26日発売)の取材で訪れたときに見せてもらった砂型鋳造は、SKYACTIV-Xエンジンを造るために、さらに精度を上げていた。
SKYACTIV-Xのシリンダーヘッドはとにかく寸法精度が要求される。そのために、SKYACTIV-Gでは一体だった中子を3分割で作り、さらに200ミクロン程度のクリアランスを持たせた状態で中子を設計し、溶湯が注ぎ込まれたときの「伸び」に対して余裕を持たせた状態で成形するようにしたというのだ。
砂型鋳造は贅沢な製造方法だった。これをすべての量産エンジンに適応するのは、マツダだけだ。マツダがコスワース鋳造をベースに独自方法でチャレンジしたとき、肉厚は4mm程度が精一杯だった。SKYACTIV-Xではそれが2.5mmになった。
SKYACTIV-Xは、こうした製造技術によって造られているのである。