TEXT:世良耕太(Kota SERA) PHOTO&ILLUSTRATION:Ricardo Japan
日本で「フライホイール」と聞いてもピンと来ないが、ヨーロッパではイギリスを中心に活発な開発が続いている。公道を走る車両に関しては、政府が出資するプロジェクトで実証実験が進行中。競技車両ではひと足早く実用化が実現し、サーキットを走り回っている(イギリスのウィリアムズ・ハイブリッド・パワー製と、同じくイギリスのフライブリッド製を搭載)。
制動時に熱に変換して捨ててしまう運動エネルギーをモーター/ジェネレーターで電気エネルギーに変換し、バッテリーに貯蔵する「電気式ハイブリッド」に対し、「機械式ハイブリッド」は運動エネルギーを運動エネルギーのまま貯蔵するのが特徴。高速回転するフライホイールがエネルギーを貯蔵する。機構がシンプルで低コスト、運動エネルギーを他のエネルギーに変換しないので高効率、パワー密度に優れ、俊敏なレスポンスが期待できる利点がある。
課題はフライホールを収める容器の構造だ。フライホイールを数万回転で回すと、外周部は音速に近づく。そのため、空気が邪魔。損失を減らすために容器内を真空にするのが、機械式ハイブリッドに用いるフライホイールの一般的な構造だ。ただし、構造上、動力を伝達するシャフトを容器に貫通させる必要がある。厳重にシールするのは当然だが、時間の経過とともに空気が容器内に侵入するのは避けられない。容器内を真空に保つためには、ポンプを用いて一定期間ごとに空気を抜く必要がある。容器内の真空状態を監視しながら、オンデマンドでバキュームポンプを作動させる解決法もあるが、スマートなやり方ではない。
リカルドが第2世代に位置づけて開発中のフライホイールは、真空容器を動力伝達シャフトから分離したのが特徴。完全密閉状態のため、バキュームポンプは不要だ。
シャフトとフライホイールが接続していないのに、どうやって動力を伝達するかといえば、磁力を利用するのである。しかも、磁力を上手に利用することによって、増速作用を手に入れた。結果、メンテナンスの煩わしさを解消しただけでなく、エネルギー密度とパワー密度の向上を達成。今後の展開が楽しみな仕組みである。