これはFCスタックの発熱量が大きく、2014年当時の技術では内燃機関以上の大きさのラジエターが必要となることだった。そのため、フロントには左右に分割した大きなインテークを持つスタイルとなった。それを、空気を取り込むイメージとし、そこから水が生まれていくという形、水流を造形のアイデアとしたものだった。結果として、初代ミライは自らが何であるのかを雄弁に語るモデルとなった。
そして誕生した2代目。こちらは、言ってみればあまりに普通なセダンに見える。しかし、この普通であることが、実際には驚異なのだ。
これまで、日本国内でいえばトヨタ、ホンダとも、よりFCユニットを小型化するための技術の積み重ねだった。もともとは、夢のようなパワーユニットで、小屋ほどのサイズのあった燃料電池システムを小型化、どちらもシステムをなんとか車体に押し込むために、実用化の手前ではSUVのようなハイトのあるモデルから始まり、ようやく十分なキャビンと荷室もある、乗用車として成立させるに至った。
さらに新型ミライに至っては、専用プラットフォームを用いるのではなく、トヨタのFR用GA-Lプラットフォームを“流用”するという手法をとるまでに至った。
それもワンチャージの走行距離は650kmから850kmにまで跳ね上がり、4人乗りは5人乗りとなった。つまり、既存のプラットフォームを利用しながら、性能向上まで実現できるだけのコンパクトなシステムにまとめあげることに成功した。まさにハードウエアも特別な存在ではない、そう言い切りたいまでにまとめられてきた。
また、これまでの前輪駆動は後輪駆動となり、全高は-65mmと低くなっているものの、全長+85mm、全幅+75mmサイズが大きくなった。これは比較するとクラウンより一回り大きく、レクサスLSより小さいというサイズ。つまりは、ミライのあるべきポジションやキャラクターを変えた。言ってみれば、より高級、上質なモデルとなったはずだ。
しかし、第一印象でいえば、どちらかというとあっさり系のセダンだ。
エクステリア&インテリアデザインに掲げられたキーワードは”Silent Dynamism”。日本語では「静寂を切り裂く孤高の躍動感」とされていて、FCVの静やかさの中に潜むダイナミズムを表現したものであるようだ。
初期の3Dイメージモデルを見ると、安定感のあるしかし力強さを感じるクルーザーのような印象も見えてくる。ここを起点に、無音で水を切り裂きながら進んでいくような造形のイメージが重なりあう。
キャラクターラインをほとんど感じさせない流体を意識させることによって、より滑らかな流れを表現。ドアハンドルレベルにある僅かな折り線、そしてサイドシルからバンパーラインにつながるラインは、言ってみれば水紋のように感じられないだろうか。水の流れの中にさした枝が描く水流のようで、清らかさも感じるものだ。
また、最近のトヨタ車の定番的造形であるフロントとリヤにみる下に広がる造形の展開は、このミライにも採用される。これがまた水紋のイメージと重なり、トヨタのバッジから始まる水の流れを感じさせてくれる。
加えて、サイドビューをじっくりと見ていくと、ほのかにながら、後輪が押し出すパワーフローをたおやかにその造形に取り込み、この大きな車体を静かに押し出し続ける力感をイメージさせてくれる頼もしさも印象付けている。
さらに言うならば、先代ミライと大きく違うのは、内側からみなぎるような力を感じさせないことだ。ここに先代とは大きく異なる、奥ゆかしさが感じられる。ある意味、自己主張を封印した形だが、それはまた寡黙な日本的デザインの原点であるかもしれないと感じさせてくれる。
とはいえ、わずかに内なる力感を見せてくれるのが、フロントフェンダーの上、ヘッドライトとの間の面構成だと思う。フロントからの極めて滑らかな流れを感じさせながらも、フロントタイヤをしっかりと受ける造形の役割も担っているように感じる。面白いのは、ヘッドライトからの光が、一度フロントフェンダー部分でなくなり、サイドウインドウの下端でメッキモールとして引き継がれることだ。
物語には起承転結が必須だが、デザインでも同様。フロントのトヨタバッジから始まるサイドの流れが、フロントフェンダーで「転」のストーリーを生んでいるようににも見える。
ここからサイドへとショルダー面を構成しているが、フロントフェンダーから期待されるリヤフェンダーの造形へは、いい意味で期待を裏切られるところに、ミライのミステリアスさが内包されているのでは? と思ったりするのだ。