熱を熱としてそのまま利用するのではなく、動力あるいは電気に変換するのがランキンサイクルシステム。システムの効率を高める取り組みや過渡領域の使い勝手、小型軽量化を模索している段階だ。


TEXT:世良耕太(SERA Kota) FIGURE:三五 ILLUST:熊谷敏直

スコットランド人の物理学者、ウィリアム・ランキン(1820-1872年)の名に由来するランキンサイクルは、すなわち蒸気サイクルである。液体(水が主流)を熱源で加熱。発生した蒸気でタービンを回し、運動エネルギーに変換。そのエネルギーで発電機を回せば電気エネルギーが手に入る。回転するタービンの力を電気に変換せず、そのまま動力として使ってもいい。役目を終えた蒸気は凝縮され、再び加熱行程に戻る。ポンプ、加熱機、蒸気タービン/発電機、凝縮機といった、ランキンサイクルを構成する基本デバイスは、火力発電所と同じ。ランキンサイクルシステムは、車載用の小さな火力発電所と考えることもできる。

三五が提案するランキンサイクルシステムの構成図。作動流体に水ではなく冷媒R134aを使用。冷却水の排熱で加熱されたR134aはそのまま別の熱交換機を通り、排ガスで加熱され、発電機/膨張機/ポンプが一体となったユニットに向かう。つまり、低温用と高温用回路は直列である。

火力発電所がボイラーの熱だけを利用して水を温めるのに対し、車載ランキンサイクルシステムは、排ガスの熱と冷却水排熱の2種類を回収して利用できるのが特徴。その場合、高温用回路と低温用回路のふたつの回路を持つことになる。




排熱回収を効率よく行なうには、エンジン暖機後が適している。また、ある程度負荷の高い領域で定常運転した状況で使用した方が、効率がいい。例えばハイブリッド車に搭載し、高速巡航した場合。従来のハイブリッド車は制動時あるいはスロットルオフ時にしかエネルギーを回生できなかったが、ランキンサイクルシステムを搭載すれば、巡航時もエネルギーを回生できる。




課題のひとつは搭載性。既存ユニットにランキン独自のユニットを追加しなければならない。熱回収効率は高いものの、電気エネルギーに変換する際、効率がガタ落ちしてしまうのも課題だ。

排気熱の回収機は触媒の後方、つまり床下に置く構成。冷却水の熱回収機、発電機/膨張機/ポンプが一体となったユニットはエンジンルームに収める。熱から変換したエネルギーは動力/電力のどちらにも対応できる設計としている。

三五のランキンサイクルシステムを車両搭載状態(プランビュー)に展開し、循環するR134aの圧力と温度を記した図。排気ガスは触媒通過後に熱交換機に向かうので、始動直後の暖機性には影響を与えない。中負荷の定常走行領域を得意とする。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 内燃機関超基礎講座 | ランキンサイクルとはなにか?——排熱エネルギーを回収して動力・電力に変換する