TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
護衛艦「たかなみ」型は現在の海上自衛隊護衛艦隊の主力艦といえる働きを担うフネだ。種類の表記は「DD」と書かれ、これは「Destroyer(デストロイヤー)」を意味する略語で、護衛艦を指している。なかでも「汎用護衛艦」と呼ばれる艦種となっていて、文字どおり多目的な任務内容に対応可能な性能を盛り込んだ設計が光る。
海自は、先の大戦終結後の創隊以降、冷戦時代から現代に至るまで連綿と汎用護衛艦を整備し続けてきており、それはイージス艦や「いずも」型のような派手さはないものの、艦隊主力としての存在感と機能性を磨き上げ続けている伝統的な艦種だ。歴代の流れをかいつまめば、「はつゆき」型、「あさぎり」型、「むらさめ」型、「たかなみ」型、そして新鋭の「あきづき」型や「あさひ」型へと繋がる。この流れのなかで「たかなみ」型は冷戦以降の護衛艦として、より多目的な機能と搭載装備体系を具体化したシリーズにあたる。ネームシップである「たかなみ(DD-110)」を始め、「おおなみ(DD-111)」「まきなみ(DD-112)」「さざなみ(DD-113)」「すずなみ(DD-114)」が就役している。
「たかなみ」型のコンセプトは現代の戦闘艦が持ちうる兵装を高い次元でバランスさせることだという。その具体例が、1:VLSの集約 2:ヘリコプター運用能力の向上 3:127㎜主砲装備による打撃力強化、となっている。
VLSとは各種ミサイルの垂直発射装置のこと。キャニスターに収めたミサイルを多数集めパッケージとして艦体に埋め込むものだ。「むらさめ」型では艦首と艦尾に分散装備されていたVLSだったが、「たかなみ」型では前部甲板の主砲塔と艦橋との間、一カ所に集約された。VLSには対潜水艦ミサイルであるアスロックと、対空ミサイルのシースパロー短SAMを混載し、高い対潜攻撃能力と防空能力を持っている。シースパローはのちにESSM(シースパロー後継の対空ミサイル)搭載へ対応するよう整備されている。
次にヘリコプター運用能力の向上について。艦後部にはヘリコプター甲板が設置され、格納庫は改良されている。サイズは「むらさめ」型とほぼ同じながらヘリ2機の運用が可能だ。これは、対潜・哨戒作戦能力が強化されたことを示す。前代の「むらさめ」型が持っていた総合性能の高さをさらに向上させている。
そして打撃力強化について。「むらさめ」型の主砲は76㎜砲だったが、「たかなみ」型ではこれを増強、127㎜主砲へ換装した。これによって従来は対空迎撃能力に的を絞りがちだった砲の運用が幅広いものとなる。水上目標への打撃力強化や地上目標への攻撃も効果的に行なえるようになった。「たかなみ」型は空からの脅威や海上、海面下の脅威に対し、全方位で対抗できる能力を持っている。
文字どおりマルチな性能を持つ汎用護衛艦「たかなみ」型が注目される事例が今年あった。2020年2月2日、緊張が続く中東海域で情報収集活動を行なうため護衛艦「たかなみ」が横須賀基地を出港、アラビア海へ向かった。法的な制約は大きい派遣だったと筆者は思う。実態は警戒警備・監視・索敵とその対応、つまりいわゆる海賊や不審船の類が接近してきて、敵対行動が認められたなら「それなりの対応」が必須となる状況なのは誰もが想像できることだと思う。しかし、そこに付与されたのはあくまで「情報収集活動」だった。巡りめぐって日本の国益に影響を与える行動とはいえ、「たかなみ」乗員の苦労が偲ばれた。ちなみに当日、横須賀湾口で沖止めしていた「いずも」は飛行甲板に乗員が整列し、登舷礼で「たかなみ」を見送っている。象徴的な光景だと感じた。
大事なく「たかなみ」は任務を終え帰国し、続く2020年5月1日、防衛省は第2次の派遣部隊として護衛艦「きりさめ(DD-104)」(むらさめ型4番艦)を同海域へ向かわせた。
さらには、日本政府は先ごろ、護衛艦とP-3C哨戒機の派遣期間を1年間延長する方向で最終調整に入ったとの報道があった。中東海域で情報収集の任務に当たっている海自の活動を延長させるべく12月の閣議決定を目指すという。中東海域での日本関係船舶の安全確保に有益な情報が得られ、調査の効果が出ていると判断したことによる。この延長で派遣される護衛艦の具体名はまだ聞こえてこないが、汎用護衛艦が出発することになると思う。シーレーンの西の端の海洋保安に努め、日本へとつながる海路全体の安定をつくるため海自の汎用護衛艦が働くことになる。