レンダリングに描かれている車両には、「ストリート」にはなかったリヤウイングが追加され、そのリヤウイングに向けてシャークフィンが延長されている。前後のフェンダー上面には開口部が追加され、より実戦仕様に近い姿になっている。「このクルマでル・マンに戻ってきてほしい」「GR Super Sportを投入するTOYOTA GAZOO Racingと再び激しいバトルを繰り広げてほしい」と願うのは、筆者だけではあるまい。
1970年のル・マン24時間でポルシェに初優勝をもたらしたのは、ハンス・ヘルマン/リチャード・アトウッド組がドライブしたザルツブルク・チームの917KH 23号車だった。917リビングレジェンド(「生ける伝説」の意)がそのクルマをイメージしているのは、独特のカラーリングから一目瞭然だ。
ポルシェは2014年にル・マン24時間を含むWECに参戦するが、デザインチームはその機を捉え、2013年に917 KHの現代的解釈を試みたのである。それが、917リビングレジェンドだ。技術面でのインスピレーションは、当時デビューしたばかりだった918スパイダーから得たという。
「ポルシェのスーパスポーツカーは高いホイールアーチの間に座り、あたかも地面の上に座っているような感覚を覚える。その感覚を強調したかった」と、チーフデザイナーのミヒャエル・マウアーは説明している。
車名が伝えるとおり、1966年に実戦投入されたポルシェ906をイメージした車両だ。906リビングレジェンドは、オリジナル906のプロポーションとデザインキューを受け継いでいるという。縦長のヘッドライトと低いボンネットフードにオリジナル906の特徴を認めることができる。
ボディ後半部分が前半部分を飲み込むようにし、ギャップ部分にエンジンの吸気ダクトを取り込んだのがデザイン上のハイライト。リヤは量感が強調されている。
ポルシェ初のハイブリッドスーパースポーツとして、2013年から2015年にかけて918台限定で生産された918スパイダーがモチーフで、その「エボリューション」(進化形)の位置づけ。ずいぶん過激な方向に進化させたことが、ディテールの処理から伝わってくる。
「ドライブトレーンとシャシー技術のさらなる進化と空力的に完璧なボディ(クローズドボディだ)により、公道、そしてレーストラックで再び新たな基準を築く」ことを想定したモデルだ。
「ポルシェのロードスポーツカーにプロトタイプレーシングカーの機能デザインを融合したらどうなるか」がテーマ。その数字から、ル・マンウイナーの「919ハイブリッド」を意識しているのは明らかだ。ロードゴーイングバージョンの919ストリートが総合バランス型のハイパーカーなら、ビジョン920はパフォーマンスに特化したハイパーカーのコンセプトである。
ポルシェはビジョン920について、「空力的に最適化されたボディとセンターコックピットとが、レーストラックと公道の境界を曖昧にする」と説明している。そのプロポーションからプロトタイプがベースになっていることは伝わってくるが、「ストリート」と比べると、919ハイブリッドとの結びつきは希薄だ。最大の見どころはリヤで、インボードブレーキがディフューザーから覗いている。
ポルシェは2019/2020年のシーズンから、フォーミュラEに参戦している。参戦車両は「ポルシェ99Xエレクトリック」だ。その99Xエレクトリックをプライベートレーサー向けに仕立て直したのが、ビジョンEである。919ハイブリッドと919ストリートの関係をなぞった格好だ。ビジョンEは当然、フォーミュラEと同様にモーター駆動で走る。
99Xエレクトリックは「フォーミュラ」なのでオープンコックピットだが、ビジョンEはクローズドボディだ。センターコックピットのシングルシーターなのは99Xエレクトリックと同じ。サイドポッドから伸びる長い腕のようなフェンダーでリヤタイヤを覆う造形は、オリジナルの雰囲気をうまく受け継いでおり、このクルマがフォーミュラEに出自を持つことをひと目で理解させる。