TEXT◎世良耕太(SERA Kota)PHOTO◎PORSCHE
ポルシェは2015年から2017年にかけてル・マン24時間レースを制覇したLMP1カー、919ハイブリッドをベースにしたロードゴーイングカーをデザインしていた。その名も「ポルシェ919ストリート(Porsche 919 Street)」である。ポルシェ919ハイブリッドの真髄をアマチュアドライバーに味わってもらうのがコンセプトだ。
アウターシェルの内側には919ハイブリッドと同様のカーボンモノコックが収まり、900psの最高出力を発生するハイブリッドシステムが搭載されている。車両ミッドに2.0ℓV4直噴ターボエンジンと熱エネルギー回生システムを搭載し、フロントに高出力のモーターを搭載するレイアウトだ。
ポルシェは2017年シーズン限りでル・マン24時間をシリーズの一戦に含むWEC(FIA世界耐久選手権)から撤退したこともあり、2017年に開発された919ストリートが世に出ることはなかった。もし市販化されていれば、トヨタがLMP1カーのTS050ハイブリッドをベースに開発中のGR Super Sportと、ハイパーカー同士の夢の共演が実現したことになる。残念ながら、ポルシェ919ストリートは幻のハイパーカーになってしまった。
なぜ、このタイミングで919ストリートの存在が明かされたのかというと、11月12日にドイツ本国で『Porsche Unseen』と呼ぶ書籍が発売されたからだ。この書籍は、2005年から2019年にかけて、ポルシェのデザインスタジオでデザインされ、世に出ることのなかったコンセプトカーにまつわるストーリーを収録している。デザインプロセスを解説した15台のうちの1台が、919ストリートというわけだ。
公開された919ストリート(1:1クレイモデル)の写真を見てみよう。ベースとなった919ハイブリッドが備えていた猛々しさは消え、すっきりしたルックスになっている。ただし、特徴的なキャノピーの形状や深くえぐられたサイドポッドの形状から、LMP1カーがベースとなっているのは明らかだ。
フロントフェンダーと一体化したヘッドライトは、ポルシェ最新量産車の特徴である4 in 1のコンセプトを取り入れている。2014年から2017年にかけての歴代919ハイブリッドも4 in 1を採用していたが、919ストリートはより洗練されたデザインとなっている。エアカーテンに空気を取り込む縦長のスリットと一体化させた処理は、電気自動車のタイカンで採用したデザインを彷彿とさせる。
919ハイブリッドはルーフの中央部にエンジンの空気取り入れ口があるが、919ストリートには開口部がない。空気をどこから取り込む考えだったのか、気になるところだ。また、919ハイブリッドはルーフを基点にリヤエンドにかけてシャークフィンが設けられていた。このシャークフィンは、スピンモードに陥った際に車両がロールオーバーするのを防ぐために規則で義務づけられたアイテムだ。919ストリートではシャークフィンのエッセンスだけをルーフに残している。
そのシャークフィンの後方にPORSCHEのロゴを配したガーニッシュとルーバー状の処理が見える。リヤに向かって傾斜していくルーフの形状と相まって、911のリヤを思い起こさせる。どことなくクラシックな処理だ。そしてリヤエンドは一転、未来的である。919ハイブリッドが備えていたリヤウイングは廃され、代わりにリヤウイングの翼端板風にデザインされた左右のアイテムを結ぶようにバーがレイアウトされている。そのバーは最新ポルシェの特徴である横一文字のテールライトになっている。
ポルシェ919ストリートは、耐久レースの王者だったポルシェ919ハイブリッドが持つデザインのエッセンスを受け継ぎ、ポルシェの最新ロードゴーイングカーのデザインキーをちりばめた1台になっている。世に出ることなく、Unseen(ひと目に触れることがない)になってしまったのがなんとも惜しい。