ジープのプラグインハイブリッド「レネゲード 4×e」が日本へも導入された。本格的なオフロード車メーカーであるジープは、その無骨なスタイルで電動化からもっとも遠いのではというイメージを持っているかたも多いかもしれない。ジープのなかでもっともコンパクトなSUV・レネゲード。電動化となったレネゲード 4×eをヨンクを知り尽くした自動車評論家・瀨在仁志はどう評価したか。




TEXT:瀬在 仁志(SEZAI Hitoshi)/PHOTO:Motor-Fan.jp

日本初導入はレネゲードから

【トレイルホーク】全長×全幅×全高:4255×1805×1725mm/ホイールベース:2570mm

トレッド:F1540mm/R1540mm/最低地上高:170mm/最小回転半径:5.5m
車両重量:1790kg/前軸軸重:980kg/後軸軸重:810kg

日本に導入されたジープ初のプラグインハイブリッドがレネゲード 4×e(フォー・バイ・イーと読む)だ。フロントに1.3ℓガソリンエンジンと回生用モーターを組み合わせたユニットと、リヤには60ps/250Nmの出力を持つ独立したモーターを積む。前後ユニットが個々に駆動力をコントロールすることで4WDを成立させているもので、前後間の機械的な繋がりはなく、プロペラシャフトは存在しない。代わりにリヤアクスルから前方にかけては、バッテリーとインバーターがレイアウトされている。




特徴はモーターのみで平均航続距離48kmを可能とし、EV単独でのトップスピードも130km/h程度までカバーする点。生活シーンから見れば毎日の買い物や通勤の足として、事実上電気自動車として利用できる。




グレードはリミテッドとトレイルホークの2モデルで、大きな違いはパワースペック。リミテッドのガソリンユニットのパワーが131psなのに対し、トレイルホークは179psとなっている。60psのリヤ駆動用のモーターに変わりはない。

リチウムイオンバッテリーは200Vの外部電源から充電でき、およそ3時間半でほぼ満充電に達するという(急速充電器は利用できない)

リミテッドの乗り味はコンフォート寄り

まずは、リミテッドに試乗してみる。電動化されて、新たに追加された走行モードには、HYBRID、ELECTRIC、E-SAVEの3つがあり、スタート時はHYBRIDとなっている。HVといえば日本車の場合頻繁にエンジンがかかってしまう印象だが、レネゲードはアクセルペダルの急な操作や、全開にしない限り反応しない。モーターのレスポンスの良さと力強さによって、大きく踏み込むこと自体不要だから、街中を走る限りはEV走行が幅をきかせる。




高速のランプや追い越し加速などでエンジンが始動すると一瞬4000rpm程度まで跳ね上がり、急に騒々しさを増すが、4WD状態になることでそれまで気になっていたフロントの上下動は収まり姿勢が安定した。加速状態を維持するとフロントがグイグイと引っぱっていってくれることでステアリングも正確さを増し背の高さを感じさせない。逆にEV状態でのコーナリングはややルーズな印象を受ける。

走行モードはHYBRID、ELECTRIC、E-SAVEの3タイプ。切替はこのスイッチで行なう

リヤモーターは高速走行に入っても、駆動力の主体となっていることは、巡航速度になるとすぐにエンジンが止まることでもよくわかる。街中よりはエンジンがかかっている時間は長いものの、隙あらばエンジンを止めてしまう。それでも不満にならないのはモーターの出力が大きいからだろう。EV状態でも通常の追い越し程度なら難なくこなしてしまい、「EVトップスピード130km/h」に偽りはなさそうだ。




さらなる力強さや安定感を求めるなら、今度はもうひとつのモードセレクトである4つの駆動パターン選択から、デフォルトのAUTOに代わりSPORTを選ぶと良い。ジープならではの駆動力を常に発揮させるため、エンジンは稼働状態になり4輪へパワーを伝達し続ける。

AUTO状態では6ATがさっさとシフトアップしクルージングを主体にしていたものが、各ギヤのキープ時間が長くなりレスポンスの良い加減速とハンドリングを味わえる。ただ、サスペンション自体はややコンフォート寄りなのか、駆動力の反応の良さにボディが影響を受けやすく、揺れが多く感じられた

では、トレイルホークはどうか

このあたりの駆動力の強さとボディの揺れを押さえ込んでくれているのが、もうひとつのモデル、トレイルホークだった。オフ用に設定された硬めの脚周りというアナウンスだったが、街乗りレベルでゴツゴツした印象は薄く、ボディの上下動もすぐに収まることで、腰のある乗り味といった程度で悪くない。

高速に入ると路面の継ぎ目などで多少のカドは感じられるものの、不要にボディが動くことがない。この硬さを逃がすためにボディが上下するリミテッドとは対照的で、個人的には好みだ

また、デフォルト状態のHYBRID/AUTOモードで走行しているときにエンジンが始動しても低速トルクがあるせいか、回転の収まりが早い。100km/h走行時でエンジン回転は2000rpm程度にすぐに落ち着いてくれて静粛性も高く、駆動力のばらつきも感じにくい。そこからの反応もリヤの蹴り出しの強さとリンクし、4輪がバランス良く加速態勢に移ってくれるのも自然でいい。 




60km/hくらいからの加速でもエンジンパワーが下からしっかりとついてきてくれることで、モーターの伸びの良さに負けていない。リミテッドとの50ps近いエンジンパワーの差は、4WDならではの加速力や、クルージング時の落ち着きの良さに貢献してくれている。


旋回中の安定感はデフォルト状態でもリミテッドのSPORTモードレベルといった印象で、シャシーのしっかり感と駆動力の前後バランス良さを味わえた。それでも街中や、高速に限らず積極的にEV走行にシフトすることに違いはなく、燃料のセーブはしっかりと行なわれている。

電動化は新たなユーザーへのアプローチとなるだろう

ジープならではのSNOWモードなどのドライブセレクトを選べば、どちらのモデルも低速側のギヤをキープし、4輪が同時に路面を蹴り上げる強靱さを持つ。前後の駆動システムに機械的なつながりはなくても、強力なモーターが常に主体となってくれることでジープ伝統の走破性を生み出している。




いずれもジープのタフな走りを想定しながらも、近代モデルとしてEV走行を前面に押し出してきたことは大いに注目したいポイント。ジープの走破力は時には欲しいけど、日常の足としての使い方がメインのユーザーにとってはリミテッドの穏やかさがお勧めだし、運転支援などに制限はあるけど駆動力バランスと走りの良さなど、運動性能に妥協したくないユーザーにはトレイルホークがいい。




EVとはもっとも遠いところにいると思っていたジープだが、電動化をきっかけにいままで以上に多彩な走行モードを再現させたうえに乗り味にもしっかりと今風アレンジが施されて、裾野は間違いなく広がった。無骨なイメージにいままでちょっと引いていた人が接するにはピッタリの一台。EV走行を存分に味わってほしい。

タイヤサイズは前後235/55R1。サイズは共通だが、メーカーが違っており、トレイルホークはグッドイヤー製を履く。雪道を走行できる性能を持つうえに、思いのほかオンロードの走りも良い。アクセルを踏んだときのレスポンスも良く、上下動の動きも少なく相性は良い。剛性感が高く安定している半面、ロードノイズ的にはやや耳障りな時がある
リミテッドが履くタイヤはブリヂストン製だ。オンロード寄りのタイヤらしく、グリップ感は路面環境に関わらず安定している。上下動は大きいものの、強い入力をカドなく受け止めるコンフォート性を持つ。もう少しダンピング性能がほしいが、ノイズの発生は抑えられ雑音が少なく音圧が低いことを考えると充分といえるだろう
充電ケーブルはカーゴスペースに付属する(ケース入り)。サイズはエンジン車と同等の330ℓ(シートを起こした状態で)

エンジン 形式:直列4気筒SOHCターボ/型式:46337540/排気量:1331cc/ボア×ストローク:70.0×86.5mm/圧縮比:10.5/最高出力:131ps(96kW)/1850pm/最大トルク:270Nm/5000rpm/燃料供給:DI/燃料:無鉛プレミアム/ターボチャージャーは前方に位置する

ジープ レネゲード Limited 4×e




全長×全幅×全高:4255×1805×1695mm


ホイールベース:2570mm


車重:1790kg




サスペンション:Fマクファーソン式 Rマクファーソン式


駆動方式:4WD




エンジン


形式:直列4気筒SOHCターボ


型式:46337540


排気量:1331cc


ボア×ストローク:70.0×86.5mm


圧縮比:10.5


最高出力:131ps(96kW)/1850pm


最大トルク:270Nm/5000rpm


燃料供給:DI


燃料:無鉛プレミアム




モーター


フロント


型式:T型交流同期モーター


最高出力:45ps(33kW)


最大トルク:53Nm


リヤ


型式:46347218型交流同期モーター


最高出力:128ps(94kW)


最大トルク:250Nm


燃料タンク:36ℓ




燃費:ハイブリッドWLTCモード:17.3km/ℓ


 市街地モード18.5km/ℓ


 郊外モード15.1km/ℓ


 高速道路モード18.5km/ℓ




充電電力使用時走行距離プラグインレンジWLTC:49.8km


EV走行換算距離WLTCモード:48km




トランスミッション:6速AT




車両本体価格:498万円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 JEEPはEV化からもっとも遠い? いえいえ、そんなことはありません!