TEXT●世良耕太(SERA Kota)
タービンブロー〜エンジン載せ替えを経験してすっかりターボ車嫌いになり、「これからは大排気量NAだ」とばかりに自然吸気エンジン搭載車に乗っていたが(後述)、過給ダウンサイジングなるものが出てきて恐る恐る(?)乗り換えたのがこのクルマだった。2011年のことである。
2.6L直6ツインターボ(280ps)〜2.8LV6NA(204ps)と乗り継いで、今度は1.2L直4ターボで最高出力は100psしかない。しかし、それで充分だった。アクセルペダルを踏んでしばらくしてからドッカンと力が湧いてくるのがターボ車のイメージだったが、このクルマのパワートレーンはストレスを感じるような応答遅れを感じさせることはなかった。ターボ車であることすら意識させない。
ときに物足りないと感じさせるシーンもあったが、気持ち良く走って燃費がいい(生涯燃費は14km/L超だった)。ターボエンジンに対する見方を変えた1台。
タービンブロー〜エンジン載せ替えを経験して、「次はNAにしよう」と思った。さらに、4ドア、マニュアルトランスミッション、4WDの条件を設定した末に選んだ(2001年)のが、VWボーラV6 4モーションである。4ドアセダンながら全長4400mm以下に収まるコンパクトなサイズも気に入った。
横置きに搭載する挟角V6の2.8L自然吸気ユニットは、最高出力150kW(204ps)/6200rpm、最大トルク270Nm/3200rpmを発生した。このクルマは筆者に、クルマは馬力ではなくトルクで走ることを教えてくれた。とくに、日常的な走行で。その意味で、感謝の1台である。
排気量が2.8Lもあるのだから当然だが、出足がいい。アクセルペダルをちょっと踏み込むと、間髪入れずに力強いトルクが湧いて背中を押してくれる。あんまりトルクがあるんで、2速発進がデフォルトだった(1速のギヤ比が合ってなかったともいえるが...)。
クルマとしての出来に懐疑的だったのだが、乗りだして数秒後に消し飛んだ。iPad(それも大きなサイズの)を埋め込んだようなセンターコンソールのデザインに度肝を抜かれたが(その後、多くの“自動車メーカー“がこの縦型大型ディスプレイを取り入れた)、それよりもっと衝撃的だったのは、高出力モーターのパワーとトルクだ。
モーターはエンジンと違い、発進時にアクセルペダルを踏み込んだ瞬間に大きなトルクを発生する。応答性が極めて高い。モーターを搭載したクルマはハイブリッド車を含めて数多くあるが、0-100km/h加速をわずか2.5秒でこなす高出力モーターを搭載しているクルマはそうなく、それがテスラ・モデルSの特徴だ。
高出力モーターがもたらす加速は、無類の気持ち良さをもたらす。轟音とともに加速するエンジン車と違い、「宇宙船が加速するとこんな感じ?」と思わせるような未知のサウンドとフィーリングを提供してくれた。ハイパフォーマンスカーに対する価値感を変えてくれた感動の1台である。