TEXT:松田勇治(MATSUDA Yuji) ILLUST:熊谷敏直
エンジンの進化におけるメインストリームは、今も昔も「高出力化」だ。その根幹を成すのは、同じ量の燃料により多くの仕事をさせる、つまり熱効率向上のための技術開発である。熱効率が高まれば、出力レベルを保ったままでエンジンの排気量(吸気量)を小さくできる。すると、重量や各種の損失低減などの好循環も生じる。これが過給ダウンサイジングの目指す方向性だ。
とはいえ、設計年代が近いエンジンの間で、熱効率に決定的な差が生じることは稀である。だとすると、より大きな出力を得るためには、より多くの燃料を燃やすことが要求される。そして、燃料が燃焼できる空燃比の範囲は決まっていて、それ以上に燃料を供給しても燃え残ってしまうだけだ。つまり、より多くの燃料を有効に燃やすためには、より多くの空気を吸い込まなければならない。エンジン大吸気量化は、そのための必然的な手段である。
レーシングエンジンのように、レギュレーションで吸気量が制限されている場合は「単位時間内に燃やす燃料の量」を増やす、つまり高回転化によって高出力化を図ることがセオリーだ。同じ時間でより多くの燃焼をこなすためには、燃焼1回あたりに必要な時間を短くしなければならないので、シリンダー1個あたりの容積をある程度の範囲に収めておきたい。すると必然的にシリンダーの数が増えていくわけだ。
ダウンサイジングやレスシリンダー化が進むなかで、V型10気筒や12気筒といった多気筒エンジンの“必然性”を判断するためには、このシンプルな原理を常に念頭に置いておくことが重要だと考えるものである。