そのバルブシートは、リング状に成形したものをシリンダーヘッドに組み付け、バルブフェイスとの当たり面を機械加工するという工程をとる。この「リング状」であるが故のデメリットに着目し、解決を図ろうとしたのがレーザークラッド式バルブシートだった。
リング状だと、どうしても寸法に余剰分が生じてしまう。余剰分はポート開口面積の縮小、シリンダーヘッドとの接触面積の増大などを招く。バルブシートという製品は粉末特殊合金を焼結して仕上げることから、ならば直接シリンダーヘッド上で肉盛りできればいいのではないか。そのためにトヨタは製法技術や合金成分などを開発し、確立している。
レーザークラッド式バルブシートはモータースポーツの世界で用いられてきたが、TNGAの世代になり、いよいよ市販車用エンジンにも展開されている。第一弾のA25A-FXSにおいて、その効果は「ストレートポートの実現」として発表された。
近年注目の急速燃焼を実現するために、直噴エンジンでは燃料と筒内の空気をよく混ぜ合わせたい。そのためには筒内の空気が強く流動していることが必要で、そこでタンブルを用いることが目標となった。トヨタは吸気ポートを筒内に向かって鋭角直線的に配することで、強いタンブル流の創生を目論む。そのストレートポートの実現に不可欠だったのが、レーザークラッド式バルブシートだった。
写真でご覧いただければおわかりのように、通常のリングシートであれば組み付け部のためのスペースが必要だし、そもそもこの角度のポート設計は難しい。レーザークラッド式バルブシートを用いることで実現したポート形状である。もちろん、先述の熱伝導性の向上にも大きく寄与する。バルブシート自体を小さくできることから燃焼室からの熱をシリンダーヘッドへ効率的に逃し、かつウォータージャケットとの距離を短くできる。
課題は、ご想像のとおりコスト。
ちなみに、トヨタはA25A-FXS登場時に「バルブ挟角拡大」というアナウンスをしている。熱効率向上のためにはS/V比を小さくすることが求められ、だからバルブ挟角は小さくして燃焼室を形成するのが常道では……などと思ったが、よくよく聞けば吸気ポートを鋭角にしたから挟角が大きくなったということだった——という具合に困惑したのを記憶している。