TEXT●安藤 眞(ANDO Makoto) PHOTO●山上博也(YAMAGAMI Hiroya)/SUBARU
08年に登場して以来、常に世界の安全運転支援システムをリードしてきたアイサイト。レヴォーグのフルモデルチェンジを機に、そのアイサイトも全面刷新が行われ、“新型アイサイト”および“アイサイトX”に生まれ変わった。両者はハードウェアの大部分を共有しており、後者は前者の上位互換、という位置付けになる。
最初に、両者に共通する部分から解説しよう。まず、ステレオカメラの撮影画角を大幅に拡大。数値は公表されていないが、イメージ図からざっと読むと60〜70度ぐらいはありそう。従来型が推定約35度だったから、ほぼ2倍になっている。サプライヤーも日立オートモーティブシステムズから、スウェーデンのVeoneer社へと変更になった。
イメージセンサー(撮像素子)には、オン・セミコンダクター社のR0321型を採用。2.3メガピクセルの高画素数を持つ裏面照射型CMOSセンサーで、複数回露光によって140dBというダイナミックレンジを実現。ほぼ人間の目と変わらない明暗差の識別性能を達成している。
さらにフロントバンパーコーナーには、広角のミリ波レーダーを追加。前側方障害物の把握能力を高めることで、交差点右左折時の対向車や横断歩行者、路地から出る際の交差交通に対しても、プリクラッシュブレーキが作動するようになった。
そのプリクラッシュブレーキには、操舵アシスト機能も追加されている。ブレーキ制御だけでは衝突が回避できないと予測され、自車線内に回避スペースがあると判断された場合、電動パワーステアリングで回避方向のアシスト力を発生させる。
リヤビークルディテクション(後側方警戒支援システム)にも、操舵アシスト機能が上乗せされている。後方から近づく併走車両に気付かずに車線変更を開始した場合、音と表示で警報を行うとともに、電動パワーステアリングを使って自車線内に押し戻す力を発生させる。抗って操舵を続けようとは思わないくらい、強い力で抵抗される。
以上が“新型アイサイト”と“アイサイトX”の共通部分。これらに加えて、準天頂衛星“みちびき”を利用した高精度GPS情報と、高速道路の区画線や案内標識までデータ化した3D高精度地図情報を利用して、より高度な運転支援機能を上乗せしたのが“アイサイトX”である。
追加された機能は、まず“渋滞時ハンズオフアシスト”。アイサイトXを設定した状態で渋滞に遭遇し、約50km/h以下の速度域になると、ハンズフリー走行が可能になったことを知らせるインジケーターランプが点灯。ドライバーがステアリングホイールから手を放しても、追従走行が継続される。追従走行は完全停止まで対応しており、停止時間が約10分以内なら、先行車に合わせて自動発進し、ハンズオフ走行が再開される。
高速走行領域ではハンズオフはできないが、ジャンクション等では“カーブ前速度制御”機能が作動する。地図データにはカーブの曲率情報も入っているため、それを安全に通過できる速度まで自動減速が行われ、直線に戻るとクルーズコントロールでセットした速度での巡航が再開される。
高速道路料金所の位置情報もマップに記憶されており、料金所ではETCゲートの推奨通過速度である約20km/hまで自動減速が行われる。試乗会ではコーンを並べた疑似料金所が用意され、それが3D高精度地図情報に料金所として記憶されており、ドライバーは何の操作をすることもなく、スムーズに減速して通過することができた。
さらに、“アクティブレーンチェンジアシスト”機能も搭載。約70km〜120km/hでの走行時、ウィンカーを深く操作すると、ミリ波レーダーで後続併走車の有無を確認し、安全であれば操舵アシストによるレーンチェンジが開始される。ハンズオフはできないが、ドライバーはステアリングに手を添えているだけで良い。レーンチェンジが完了すると、ウィンカーは自動的に消灯される。
安全走行を担保する機能としては。“ドライバー異常時対応システム”も追加となった。センターディスプレイ上部に内蔵されたカメラでドライバーの表情を捉え、一定時間、前方から顔の向きが逸れたり、ハンズオフ機能作動時以外でステアリングから手を放し続けたりすると、音と表示で注意を促し、それにドライバーが反応しないと、自動ブレーキを作動させて緩やかに減速を開始。やや遅れてハザードランプが点滅し、さらに少し遅れてホーンを断続的に吹鳴させ、周囲に異常を知らせながらクルマを停止させる。
その際に、クルマを路肩に寄せる操舵アシストは行われないため、一定以上の曲率を持つカーブでは減速にとどめ、カーブを抜けるまではクルマを停止させない。
コネクティッドサービスがオプションとなるため、自動通報機能とは連動しないが、それができるようになれば、より便利になるだろう。アイサイトの設定も、ボタン操作ではなく曖昧なコマンドも受け付ける音声認識機能と、作動状況が切り替わった際の音声ガイダンスが付けば、より使いやすくなるのではないか。