陸上自衛隊の渡河・架橋装備を、91式戦車橋、81式自走架柱橋、70式自走浮橋と紹介してきた。今回はさらに「橋」の装備、92式浮橋である。70式自走浮橋の後継装備で、文字通り「浮橋タイプ」の浮橋である。


TEXT&PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

そしてこれが動力ボート(と動力ボート運搬車)。ボートはトラックの運転席に近い部分が船首で、舳先には水面で橋節を押すバンパーが付いている。

 陸上自衛隊の渡河・架橋装備を、91式戦車橋、81式自走架柱橋、70式自走浮橋と紹介してきた。今回はさらに「橋」の装備、92式浮橋である。


 先に紹介した91式戦車橋、81式自走架柱橋、70式自走浮橋は「橋」装備のタイプ別代表3例だ。91式戦車橋は戦車の通行を重視し、戦車を最重量車として以下ほぼすべての車両や装備を通行させるもの。81式自走架柱橋は、複数の柱を建て橋桁を渡し架ける「桁橋」方式(水面から上の橋)といえるもの。70式自走浮橋は、水に浮く構造の橋桁を浮かせて架設するものだ。陸自は橋の構造と種類の違う装備を複数開発・導入し、各々を運用してきているわけだ。

ひとつの橋節に1隻の動力ボートがペアとなるので、その1ユニットを艀(はしけ)として利用することも可能だ。

 今回紹介する92式浮橋は名称どおり浮橋タイプになる。開発は1989年(平成元年)から開始、1992年(平成4年)に制式化された。90式戦車の導入に合わせて造られた新型渡河機材で、浮体構造の橋節(橋桁)を河川に架設し、重量約50トンの90式戦車をはじめとする重車両や装備を渡河させる。70式自走浮橋の後継装備にあたる。

動力ボートの後部に取り付けられたスクリューと舵は広い角度で動かすことができ、細かい動きで橋節の連結や移動などの作業を行なえる。

 92式浮橋は浮体構造の橋節と動力ボートの組み合わせから成る。橋節を積んだ運搬車と動力ボートを積んだ運搬車、道路マットと道路マット敷設装置で構成されるシステムだ。従来の自走して川へ進入し浮橋を構築する方式を改め、トラックの荷台に積んだ単体のフロート橋(浮体構造の橋節)と、それを制御するボートを組み合わせ、浮き橋にする方式を採用した。フロート橋ひとつと動力ボート1隻で、1ユニットだ。

橋節運搬車は後退して水辺に接近、荷台を立ち上げて橋節をドボンと落とす。浮いた橋節はパカッと展開しひとつの橋桁になる。写真/陸上自衛隊

 92式浮橋の展開方法は、まず動力ボートを水面に降ろしてエンジンを始動、待機する。次にフロート橋を水中に投下し展開させ、動力ボートがフロート橋を回収して連結させる。動力ボートの舳先にはフロート橋を押して移動させるためのバンパーが付いている。最後に渡し板を通して橋を完成させる。

8つのユニットを連結して約100mの浮橋を仮設した状況。74式戦車や96式装輪装甲車、高機動車などが通行中。浮橋は浮いているだけなので、各動力ボートは推進力をかけて川の流れに対して浮橋を押している。車両等を通し終えたら即撤収、そういう使い方だ。写真/陸上自衛隊

 ひとつのフロート橋ユニットが展開すると長さは約13mになり、7〜8ユニットを連結すると約100mの浮橋が架設できる。橋の幅は約4mなので、90式戦車以下の重量級車両や各種装備を楽に通行させられるものだ。橋面に道路マットを敷くことで平坦になり、走りやすそうなフラットな橋が特徴だ。

92式浮橋は艀(はしけ)として使うこともできる。これは5つのユニットを連結し車両を載せ、動力ボートで押しながら川の対岸へ運んでいる防災訓練での状況。写真/陸上自衛隊

 渡河・架橋装備とは文字どおり河川や地隙(ちげき:地表の亀裂、大きく深いもの)などを越えるためにある。川や地表に亀裂があるからと、その都度迂回するのは本意ではない。妨げを乗り越えて移動できること、前進または後退できる装備と技術を持っておくことは必須だ。災害対応面を見ても、陸自に高性能な渡河・架橋装備があることは安心だと思う。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 陸上自衛隊:90式戦車も渡れる! 浮体橋とボートで構成、柔軟に運用できる「92式浮橋」自衛隊新戦力図鑑