TEXT●御堀直嗣(MIHORI Naotsugu)
電気自動車(EV)の技術で何より鍵を握るのは、リチウムイオンバッテリーである。それも単にバッテリー性能だけでなく、いかに大量に、高品質で入手(購買)できるかが、EV販売の成否に掛かってくる。
ホンダeは、開発目標の第一として、欧州で2021年から強化される二酸化炭素(CO2)排出量規制への対処にあるとする。来年からの規制と思われがちだが、実は、今年秋から現地で販売される新車は21年モデルと呼ばれるものになるので、事は急がれた。そこで、今年の春から欧州では先行して販売がはじまっている。
開発前の現地視察で、都市での利用に的を絞る方向性が定まり、そして選んだリチウムイオンバッテリーは、一般に走行距離を重視した容量型ではなく、加減速や充電性能を優先したプラグインハイブリッド用の出力型を選んだと開発者は話す。バッテリー容量は、35.5kWh(キロ・ワット・アワー)だ。正式発表前の執筆時点での数値は、この稿においてもすべて暫定値になる。
これにより、国内のWLTCで283km(JC08モードでは308km)走れるとする。
日産リーフは、標準車で40kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTCで322km走れる。1kWh当たり何km走れるかを試算すると、リーフは8.0kmでホンダeは7.9kmなので、バッテリー搭載量に対する一充電走行距離の性能はほぼ同等といえそうだ。ただし、バッテリー容量をそのまますべて走行に使っているかというと、バッテリーの信頼耐久性のため自動車メーカーごとに余力を残しているのが実態で、必ずしも机上の試算が的を射ているとは限らない。
2019年の東京モーターショーで公開された前後、ホンダeの一充電走行距離は約200kmといわれてきたが、国内向けの諸元から、空調を利用しても200km前後走行できる実走行性能は持っていそうだ。これであれば、日常の用途には十分で、毎日充電しなくてもいいかもしれない。また、遠出をする際には急速充電器で30分充電すると202km走れる電力を蓄電できるとのことなので、途中1回の充電で400km近くは遠出できることになる。
ちなみに、リチウムイオンバッテリーは水冷を採用し、加減速の繰り返しや、急速充電での加熱に対処している。
充電は、国内向けはCHAdeMO対応で、200Vの普通充電と、急速充電の口が、フロントボンネットフード上に並んでいる。
車体の後ろ側に搭載されるモーターは、アコードハイブリッドで使われているものを流用している。ただし、エンジンに組み込まれていたのとは別体での搭載となるので、ケースはホンダe専用となる。
また、パワー・コントロール・ユニット(PCU)は、HVではモーターの上に搭載されていたが、モーターの横へ配置することにより、荷室の床の高さを下げている。最高出力は113kW、最大トルクは315Nm、最高回転数は1万1920rpmだ。モーター冷却は、油冷を採用し、HV同様にオイルポンプが組付けられている。
プラットフォームは、ホンダe専用で開発された。その理由は、エンジンのホンダ乗用車はフロントエンジン・フロントドライブ(FF)を採用するが、ホンダeはリアモーター・リアドライブ(RR)であるからだ。開発当初はFFで検討されたが、都市型EVとして最小回転半径を極力小さくすることを目標の一つと掲げたため、RRになったという。
そして、いわゆるエンジンルームの位置には、制御系と充電口が設けられている。カットフレームを見た限りフロント周りは空間の多いプラットフォーム構造と思えるが、それによって前輪の切れ角を大きくとることが可能になり、最小回転半径は、軽自動車より小さな4.3mとなった。前輪の切れ角は、内輪側が約50度、外輪側が約40度だ。工場内を駆け回るフォークリフト(こちらは後輪操舵だが)のように、前輪が横へ大きくきられる様子を外から見ることができる。
プラットフォーム中央の床下に、駆動用のリチウムイオンバッテリーが敷き詰められている。左右対称で、1モジュール16セルのバッテリーが、片側に6セット直列でつながれ、同じものを左右に並べて2並列となるよう搭載されている。バッテリーケースの高さは約180mmだ。
サスペンションは、ストラット式の4輪独立懸架で、快適な乗り心地を得るためこの方式になったという。したがって、欧州にある石畳の道でも乗り心地はよいとする。
前後左右の重量配分は、それぞれ50対50である。FFを前提としたこれまでのホンダ車とは違った運転感覚や乗り味になるのではないか。もちろん、バッテリーを床下に搭載するので、低重心でもある。