TEXT●御堀直嗣(MIHORI Naotsugu)
地下駐車場でアクセルをひと吹かししたとき、館内に響き渡った排気音が、すべての理性を失わせた。それが、R32スカイラインGT-Rの初体験だった。
重いクラッチをつなぐと、まだターボチャージャーが作動するまえから強いトルクを感じさせ、直列6気筒ツインターボの底力を思わせた。4輪で、ぐっと車体を前進させる様は、まさに怪物といっていい新しい時代のGT-Rを体感させたのである。
その後の運転感覚がどうであったか、もはや記憶はおぼつかない。速く走らせる以前に、R32GT-Rの存在感そのものに圧倒されたのであった。それでも、このクルマの思い出は第3位である。
第2位は、トヨタ・スポーツ800(S800)だ。1960年代当時、S800といえば注釈をしなくてもホンダS800を指したといっても過言ではない。ホンダS800の諸元や存在感は、時代を牽引する魅力にあふれている。しかし、ホンダS800の70馬力に対し、空冷2気筒で45馬力しかなかったトヨタS800の走りは、580kgという軽い車体重量との調和によって、壮快な運転感覚をもたらしたのである。
旧車となってからの試乗であったため、それほど全力で走らせることはかなわなかった。それでも、高回転までエンジンはきれいに回り切り、排気もいい音色をしていた。
スポーツカーの究極は、軽量コンパクトであるといわれる。現代のライトウェイトスポーツカーであるロードスターも、開発ではマツダの技術者が軽量化にこだわった。非力なエンジンでも心躍らせるクルマをつくれることを、身をもって教えられたのがトヨタS800であり、私の原点となった。
そして1位は、初代日産リーフである。電気自動車(EV)としては、同じく三菱自が軽自動車で作り上げたi-MiEVもEVの意味を実感させた一台だが、リーフは、クルマとしての走りや乗り心地だけでなく、携帯電話と同様の通信機を一台車載することにより、クルマで出かけるときの不安をどれほど解消し、心を解放的にしてくれるかを体感させたのである。それは今日の言葉でいうと、ヒューマン・マシン・インターフェイスであり、コネクティビティであり、それらが自動運転を含めた将来のクルマ社会の姿を新しくしていくことになる。初代リーフは、そのことを10年前に垣間見せたのであった。
また、クルマとしても、小型車でありながらEVであることにより、静粛性や乗り心地の上質さ、モーター駆動による瞬発力と壮快な運転感覚のすべてを味わえ、まさにエンジン車が過去130年にわたって心血を注いできた性能のすべてがEVなら容易に手に入れられることを教えたのである。なおかつ、EV後のリチウムイオンバッテリーによる社会への電力供給や、災害時の電力支援にも貢献できることをリーフやi-MiEVは東日本大震災の後に実証した。
EVは売れないとの声もいまだにあるが、エンジン車ではおよびもつかない社会貢献とストレスフリーなクルマでの移動を初代リーフで知ることができたのであった。
【近況報告】
在宅が多くなったこの春から、CNNやBBCのニュースをほぼ毎日観ている。個人の意見を堂々と語り、意見の相違は民主主義の証だという米英の、ジャーナリズムの闊達さに刺激を受けている。
【プロフィール】
1955年生まれ、65歳。30歳になってから執筆の仕事をはじめ、著書は29冊。環境やエネルギーはもとより、福祉車両やクルマ関連事業、経済活動も含め、俯瞰的に執筆中。
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