REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) FIGURE●国土交通省
「特定整備」とは要約すれば、従来の「分解整備」にADAS(先進運転支援システム)や自動運転システムの点検整備を追加したもの全体を指す。だが、「特定整備」以前に従来の「分解整備」も、多くの読者にとっては馴染みのない言葉と思われる。
では「分解整備」とは何か。道路運送車両法には、「原動機、動力伝達装置、走行装置、操縦装置、制動装置、緩衝装置又は連結装置を取り外して行う自動車の整備又は改造であつて国土交通省令で定めるもの」と規定されている。そして、この「分解整備」を自動車整備工場が事業として行うには、作業場面積・設備・要員に関する認証基準を満たし、地方運輸局長の認証を受ける必要がある。
法律の文面は非常に堅苦しく分かりにくいので、極端に大雑把に要約してしまうと、「エンジン・モーター、駆動系、サスペンション、ステアリング、ブレーキなどを取り外して整備するのは、ちゃんと作業できるスペースとツール、資格を持った整備士がいて、認証を取った整備工場でなければダメ」ということだ。
前述の7種類の部位がこのように「分解整備」の対象部位として規定されているのは、正しく脱着し点検整備するには専門的な知識と技術、場所とツールが必要で、素人がうかつに触って故障させれば、クルマがコントロール不能になり、人を命の危険にさらしかねないからに他ならない。
だが、そういう観点からすると、ADASや自動運転システムがそれに含まれていないことには、大きな疑問符が付く。
ADAS搭載車が発売されてからもう20年以上、ADAS普及の火付け役となったスバルの「アイサイト」やダイハツの「スマートアシスト」が市販されてからも10年前後経っているが、ADASを司るセンサーの不具合による事故はすでに起こり始めている。さらに今後ADASが進化・普及し、2020年内にも自動運転システムが市販されれば、センサーの不具合による事故のリスクはますます高まるだろう。
このように、法律が技術と実社会の変化に追いついていない状況を解消するため、ADASや自動運転システムも言わば「さわるなキケン」な部位に追加し、名前も「分解整備」から「特定整備」に変更したのが、新しい「特定整備」の制度ということになる。
概要は下図の通りだが、法律上は、ADASは分解整備の対象装置の作動に影響を及ぼす「運行補助装置」、自動運転システムは「自動運行装置」、また両者を総称して「電子制御装置」と定義されている。
では、この「特定整備」制度の運用が開始されたことで、私たちユーザーのカーライフはどう変化するのか。端的に言えば、ADASなどがパワートレインやシャシーと同じ扱いになるため、定期的に点検整備を整備工場に依頼し、いつでも安全に走れるようクルマを管理しなければならなくなる。
具体的には、「電子制御装置」が2021年10月1日より12ヵ月点検の対象になる。と同時に、経過措置を受けた一部の整備工場以外はその点検整備ができなくなるため、車検や12ヵ月点検はもちろんADASなどが故障した場合、そして関連するセンサーが装着されたバンパーやガラスの脱着が伴う整備・修理やカスタマイズも、直接作業してもらいたい場合は「電子制御装置」の「特定整備」認証を受けた整備工場へ入庫しなければならなくなる。
だが、ここでややこしいのは、少なくとも現時点では、「運行補助装置」は衝突被害軽減ブレーキとレーンキープアシストのみがそれに該当する。しかも、そのいずれかが装着されている車両すべてが「電子制御装置」整備の対象となっているわけでもない、ということだ。
具体的には、車検証に記載されている初度登録年月が別表の判定フロー図で示されている保安基準の適用年月日以降になっている車両が、それにあたる。
ただし、先取りして保安基準の適用を受けている車両もあるため、初度登録年月が保安基準適用年月日以前の車両でも、国土交通省Webサイトの「電子制御装置整備の対象車両」ページから、対象車両かどうか確認しなければならないので注意が必要だ。
なお、今回この「特定整備」制度を施行したのは、車検時にスキャンツール(故障診断機)を用いる「OBD検査」を、2021年(輸入車は2022年)以降に生産された新車を対象として、2024年(輸入車は2025年)より開始することを踏まえてのことでもある。この「OBD検査」については次回以降にご紹介したい。