TEXT●世良耕太(SERA Kota)
エンジンのメカニカルな音が“すぐ後ろ”から聞こえてくることに価値がある。じゃあ、ミッドシップなら何でもいいかというとそんなことはなく、ホンダS660のエンジン(660cc3気筒ターボ)はドライバーの心を揺さぶるよう、よく考えられて開発され、仕立てられている。
例えば、加速時の吸気音がよく聞こえるよう、エアクリーナーのサイズを大きくすると同時に、ファンネルはドライバーに向けてレイアウト。S660のために新設計したターボチャージャーはレスポンスを向上させており、加速時には「ヒューン」という高周波音を発して、「あ、ターボ効いてるな」と感じさせる。そしておもむろにアクセルを戻すと、過給圧を解放するブローオフバルブの「バシュッ」という音が響く。
いや、もう、楽しくて仕方ない。S660はシート背後のリヤウインドウを電動で下げることができるが、これを下げるとエンジン音がダイレクトにキャビンに飛び込んできて、楽しさが倍増する。
リトラクタブルハードトップのRFは、よりパワフルな2.0Lのエンジンを搭載するが、あえて1.5L(直列4気筒自然吸気)エンジンを搭載するソフトトップを選びたい。そして、6速MTとの組み合わせがおすすめだ。
高回転まで引っ張って上の段に切り換える操作を繰り返すと、乾いたいい音を響かせて車速を上昇させる。首が後ろに持っていかれるような強烈な加速はもたらさないし、ずいぶん頑張ったつもりでメーターに目をやると、60km/hしか出ていなかったりもする。それでも十分に楽しいのは、クルマの出来がいいのもさることながら、エンジンにクセがなくて扱いやすく、アクセルペダルの動きに即応してきっちり仕事をしてくれるからだ。
エンジンと乗り手の濃密な関係が味わえるのが、このエンジンを推す理由である。
アクセルペダルを踏まなくてもこのエンジン、すなわちVR38DDTT型、3.8LV型6気筒ツインターボの実力は肌を通して染み込んでくる。いや、ずかずかと乱暴に入り込んでくる。シフトレバーの前方にある赤いボタンを押すだけでいい。すると、最高出力419kW(570ps)、最大トルク637Nmの超高性能エンジンは、「ヴォン」という野太いサウンドを発して目覚める。目覚めのひと吠えを聞いただけで、並外れたエンジンのポテンシャルを乗り手に悟らせる仕掛けだ。こんなエンジン、なかなかない。17年モデル以降は、電子制御バルブの切り替えで静かに始動できるが、環境が許せば、野太い目覚めのサウンドは味わっておきたい。
走り出してからのフィーリングも最高だ。アクセルの踏み込みに対して期待する加速感と、「咆哮」と呼ぶにふさわしいサウンドの盛り上がりがシンクロし、気分を盛り上げる。GT-Rをドライブする行為は、「エンジンの咆哮と力強い加速感のシンフォニーを体感する行為」と言い換えてもいいくらいだ。
【近況報告】
久しぶりに新幹線に乗った。東京駅で乗車して新横浜駅の手前で車掌に声を掛けられた。「その席で合ってますか?」と。自信を持って「EXご利用票(座席のご案内)」を提示したところ、「違いますね」と。のぞみ15号14号車8番E席と利用票には刷ってあったが、座っていたのは15号車14番E席。8はどこに行った?
【プロフィール】
クルマとモータースポーツの「技術」を追いかけるモータリングライター&エディター。近著に『トヨタ ル・マン24時間レース制覇までの4551日』『F1テクノロジー考』(三栄)。
『気持ち良いエンジンならこの3台』は毎日更新です!
内燃機関は死なず! 世の中の流れは電動化だが、エンジンも絶えず進化を続けており、気持ちの良いエンジンを搭載したクルマを運転した時の快感は、なんとも言えないものだ。そこで本企画では「気持ち良いエンジンならこの3台」と題して、自動車評論家・業界関係者の方々に現行モデルの中から3台を、毎日選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)