TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
フォルクスワーゲン「TGI」とは、ガソリンのTSIエンジンをベースにCNGとのバイフューエル仕様にしたパワートレイン。樹脂製燃料タンクと200気圧CNGタンクを備える。VWはゴルフ、パサート、シャランのほか商用車であるキャディなどにTGI仕様を設定している。車両プラットフォームMQBは完全電動EVやTGIを想定して設計されており、VWの車両工場で生産される。
2015年のEUデータでは、全乗用車保有台数のなかでCNG(圧縮天然ガス)車とLPG(液化石油ガス)車が占める割合は2.2%である。小型商用車では1.1%、中大型商用車では0.5%だ。国によってガス車の中心をCNGに置くかLPGに置くかは異なるが、ガス車全体で見ても、自動車燃料多様化が進んでいる欧州でさえごくわずかである。全世界で見てもCNG車の普及台数は2300万台弱で、産地と需要地が近い点がガソリン/軽油と大きく異なる。
現在、乗用車にCNGを使う場合はバイフューエル(2種燃料)がほとんどだ。ガソリンエンジンをベースに、ガソリンの燃料供給系に加えてCNGの燃料ラインを追加する方法だ。欧米では自動車メーカーがカタログモデルとしてCNGバイフューエル仕様を設定するケースは決して珍しくはない。自動車燃料の多様化は、ある意味で一国のエネルギー安全保障を担うものであり、日本は災害に対して国土を強靭化するプログラムのなかでガスが注目されている。しかし、全世界で年間1億台に近い自動車が販売されているなかで、ガス車が占めるポジションは微々たるものでしかない。
では、将来に向けてもCNGは現在の地位にとどまり、地産地消エネルギーとしてだけ活用されるのだろうか──答えは「No」だ。
その例を挙げると、まずディーゼルエンジンでの使用である。究極のクリーンディーゼルをめざす研究開発の第一線では、CNGが持つ「低CO2/低NOx」が注目されている。
圧縮着火しやすい軽油を火種として少量だけ使い、メインの燃料をCNGにするエンジンだ。研究室段階では熱効率60%に届いており、実用化が期待されている。基本的にCNG燃料はCO2ポテンシャルが高い。CNG専用エンジンの部分負荷ではガソリンよりもCO2発生を最大で40%近くまで減らすことが可能だ。これはすでに実験データが存在する。現状では給ガスのためのインフラが貧弱である国が多く、そのためにガソリンとのバイフューエルが選択されるが、自動車用エンジンとして成立するかどうかという点ではCNG専用でもまったく問題はない。ガソリンに比べて発生トルクが理論値で15~20%落ちるが、バルブタイミングの最適化などで実用上の問題がないところまで追い込まれるようになった。