TEXT●河村康彦(KAWAMURA Yasuhiko)
ひと昔前までであれば、”気持ち良いエンジン”に共通するスペックと言えば、おおよそ「高回転・高出力型の自然吸気ユニット」と相場が決まっていたもの。ここに取り上げたR8と911GT3用の心臓も、まさにそうしたセオリーに則った存在だ。同時に、大排気量ユニットの許容回転数を高める特効薬は、気筒のマルチ化。例えば5.2Lで10気筒というR8用ユニットなどは、それを絵にかいたようなデザインの持ち主だ。
そんなR8用エンジンも”最もサーキットに近い911”と言えるGT3用のエンジンも、最高出力を発するのは8000rpm以上と高いポイント。実際、回転数が高まるほどにアクセル・レスポンスがシャープさを増し、甲高い雄叫びと共に2段目ロケットに点火されたかのごとくさらなるパワーの高まりが味わえるそんな両者は、「現行モデルの中で最も官能的なエンジンを挙げよ」と問われた場合、その筆頭に掲げる足るアイテムであることは間違いない。
一方で、そんなキャラクターを許さなくなってきているのが、昨今求められる様々な環境性能。特に、”罰金付き燃費規制”が本格施行の目前という欧州市場では、「高額な罰金は払いたくない」というのが本音の各メーカーが、なりふり構わぬ態勢でパワーユニットの電動化に挑むという状況が続いている。
こうなると、パワーは出るがネンピに劣る高回転・高出力型のエンジンなど、生き残るのは難しいのが自明というもの。排気エネルギーの”回収装置”であるターボチャージャーが加えられれば、サウンド面でも大きなハンディキャップを背負うことは明らかだ。
特筆すべき官能度を味わわせてくれるここに紹介の2つの高回転・高出力型ガソリン・エンジンも、端的に言ってこの先生き残ることが出来るのは、そう長い期間ではないかも知れない。
一方、フォルクスワーゲンが起こしたスキャンダルによって一気に商品性を落とすこととなったディーゼル・エンジンだが、その中にあっても固有の技術で複雑な排ガス後処理装置の装着を回避し、世界の存在感を高めているのがマツダのディーゼル車。特に、シーケンシャル・ツインターボを備え、日常シーンでの扱いやすさと回転上昇に伴う優れたパワーの伸び感を両立させた2.2Lユニットは秀作そのものだ。
事実、そんな心臓を新たに設定されたCX-5のMT仕様ですると、日本車としては珍しく色濃いエンジンのキャラクターをタップリ味わうことが出来る。ちなみに、そんなエンジンは、CX-5以外にもCX-8やマツダ6のセダン/ワゴンが搭載。実はこのディーゼル・ユニットを搭載するマツダ車は、いずれも「灯台下暗し」のスーパー・パフォーマンスの持ち主だ。
【近況報告】
息も詰まりそうな数カ月が流れ、今年もすでに後半戦。まだまだ”海外取材など夢”という状況ながら、「出張が無いとデスクワークがメチャ楽!」という禁断の世界?に気づいてしまうことに。
【プロフィール】
1960年東京生まれ。モーターファン(三栄書房)の編集者を経て、1985年よりフリーランスのモータージャーナリストに。確かな運転技術を駆使して、自動車を冷静かつ的確に批評する。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、ワールド・カー・オブ・ザ・イヤー選考委員などを歴任。
『気持ち良いエンジンならこの3台』は毎日更新です!
内燃機関は死なず! 世の中の流れは電動化だが、エンジンも絶えず進化を続けており、気持ちの良いエンジンを搭載したクルマを運転した時の快感は、なんとも言えないものだ。そこで本企画では「気持ち良いエンジンならこの3台」と題して、自動車評論家・業界関係者の方々に現行モデルの中から3台を、毎日選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)