イラスト●大塚克
免許のオハナシは、すでに所持している人にはどうでもいいことかもしれない。けれど、世の中にはまだまだたくさんの中免オンリーな人が多いことだろう。何も若い人ばかりでなく、80年代から90年代のバイクブーム期を過ごしたオッサンライダーにも、実は中免オンリーな人が多い。それは当時、大型免許を取得するには一発試験に同格するしか方法がなく、合格するのは極めて困難だったから。
だから、今回からの大型自動二輪免許チャレンジでオッサンがトライして合格するまでのプロセスには、中免オンリーな人へのメッセージと同時にヒントがあるはずだ。取得したいけれど諦めていた人、教習所へ通う時間が取れない人などなど、ぜひ参考にしていただきたい。
では、早速紹介しよう。まず筆者が受けたのは東京の府中試験場だ。同じ都内でも鮫洲だと駐車スペースが少ないなど、電車やバスといった公共交通機関以外のアクセスに向いていない。その点、府中は4輪駐車場が広いし、二輪の駐車スペースも豊富なのだ。
まずは府中試験場の受付で普通免許を所持していることを伝え、大型自動二輪免許を取得しに来たことを用紙に書き込み申請する。すると手数料を印紙で買うことになる。筆者が受験したのは2016年のことなので現在と手数料が異なるかもしれない。当時は1回の試験で4500円が必要だった。これは受験料と試験車使用料の合計で、晴れて試験の合格すると免許証交付料がさらに必要になる。その詳細は警視庁のWEBサイトに掲載されているので、参照いただきたい。
それが済んだら視力測定などを受けて試験資格があるかどうか判定される。これが適性試験で、通常の免許を更新する際にも行われるから覚えている方も多いだろう。そのまま次のステップに進みたいが、そうもいかない。適性試験当日は技能試験を受験することができないのだ。そこで技能試験を予約するための番号を作成する。これは試験場で自分の番号と暗証番号を入力するもので、次からの試験ではこの番号と暗証番号だけで申請が可能になる。
それでは早速、予約をしよう。ところが…、意外にも受験者が多く直近で空いている日がない! すでに記憶が定かでないので正確ではないが、2週間ほど先になった記憶がある。仕方なしにかなり先の試験日を予約して、その日は帰路についた。
待ちに待った受験日、体調は万全だしヒマな時間に大型自動二輪免許を一発試験で取得した人が作成したホームページや動画を見て勉強してきたので、不安はない。と言うか、それほどカンタンではないだろうが、なんとなく受かりそうな気がしていた。時間になると学科試験を受ける教室へ向かい、大型自動二輪を受験する人たちから外に出て、コースまで歩くことになる。上空からの写真では右下にある白い屋根の建物へ向かう。ここが技能試験受験者の控室のようなもの。ここで説明を受けたら、次は事前審査だ。
事前審査とは、大型自動二輪に乗れるだけの体格があるかどうかを問われる。つまり、倒れた車両を引き起こし、8の字に車体を歩いて引き回すことだ。
ここで自分の年齢を忘れていた。かつて取得した時はまだ40代入りしたばかりの頃だったが、すでに後半。ちなみに筆者、若い頃から筋トレではないが自宅で毎日腹筋・腕立て伏せをしていた。ところが腰痛持ちなので、ある時から自宅での筋トレをやめてしまった。筋トレをしないほうが腰痛を起こしにくいと聞いたからだ。また、40代前半まで、自宅から事務所まで小一時間かけて歩いて通っていた。合計で毎日2時間歩いていると、自然に体力がつく。ところがこれもやめて数年経っていた。つまり筋力も体力も大幅に落ちている。これが大きく響いた。
倒れているのはホンダCB750。コイツは確か、数十年前に大型免許を取得した時のバイクで馴染みがある。ただ、倒れているCB750にはタンクの内部に砂が詰められている。要は満タン状態での引き起こしになるのだ。
前述したように、受験当時の筆者は筋肉が落ちて体力もなかった。だからCB750の引き起こすのに、その日の体力の大半を消耗してしまったのだ。続く8の字でも顔にこそ出さなかったが、心臓の音が聞こえそうなほど体力を使った。
ちなみに大型自動二輪の一発試験に来るのは、圧倒的に若い人が多い。その中で40代のオッサンはだいぶ浮いている。自分以外にも数人いたが、持参したヘルメットやブーツ、革ジャン姿の筆者は、いかにも「乗ってました」風。だから、あまり格好悪いところは見せられないと、おかしな気負いもあった。だから肩で息するような無様な格好はできなかった。今思うと、もっとゼイゼイしておけばよかったのだ。
ところがスタンドを払ってまたがると、意外にも親和性が高い。筆者は身長163cm体重52kgしかないが、それでも大丈夫と思える安心感のあるポジションなのだ。そしてクラッチをミートして走り出すと、さすがに低速からトルクが出ているのでアイドリングでも動き出す。これはイケると思いつつコースを進む。まず難関は一本橋だ。
その昔、大型免許を取った時は規定時間にプラスして十数秒くらい余裕を残して通過した経験がある。大丈夫と心に決めてイザ、進入! ところが、まるで昔と勝手が違う。どうしてもバイクが素直に直進してくれない。そう、筆者はすでにこの時、体力の大半を消耗していた。悲しいかな、バイクを押さえ込むことができないのだった。
ここで心を切り替えて規定時間ギリギリでもいいから速度を出せば良かったのだが、やはり若い人の手前という気負いがあったことは隠せない。ゆっくり通過してやろうと思いつつコントロール不能になり、まことにカッコ悪いが橋から落ちてしまった。
ここで転んだりしたら目も当てられないが、さすがにそこは経験があるので苦渋の表情とともにバイクを進める。「ハイ、戻って」と言う拡声器の声に導かれ発進した場所へ戻る。ここで試験官からどこが悪かったか言われるのだが、さすがに試験官も苦笑いの表情を隠さなかった。イヤァ〜悔しい!
だが、これである意味闘志が湧いた。絶対に一発試験で合格してやると心に決め、コースから離れたのだった。(次回へつづく)