TEXT●菰田潔(KOMODA Kyoshi)
BMW X3をベースにしたアルピナ版。先代のF25から現行のG01になり、XD3として2代目になる。
高性能エンジンを搭載するとどんどん乗り心地が硬くなって揺すられる傾向のあるX3に対し、アルピナXD3はハイパフォーマンスエンジンを搭載しながらも最高の乗り心地を提供してくれるところが魅力だ。
うまく衝撃を吸収し、深いストロークによって乗員が揺すられる感じにならないのはまったく別のダンパーを装着しているのかと思っていた。その秘密を先代のアルピナXD3の開発者に聞いたことがある。ダンパーのメーカーを尋ねたらX3と同じだという。しかもパーツそのものもまったく同じというから驚いた。
その秘密は電子制御のダンパーにあった。そのプログラムはアルピナによりXD3に合わせて書き換えているという。それでも信じられなかった。ソフトの書き換えだけでそんなに激変するのか。すると答えは、アルピナはワンスペックだからできるのだと。つまりタイヤのブランド、サイズ、ホイールのサイズとデザイン、これがワンスペックしかないから、これに合わせて乗り心地もハンドリングも調整すればいいというのだ。
X3の場合には、カタログモデルだけでも装着しているタイヤサイズはインチの違いだけで3種類(18、19、21インチ)あるし、オプションで選べばホイールのデザインも何種類もある。デザインが違えば重量も違うからセッティングが異なるという。タイヤのブランドも数メーカーあるから、それらのすべてで問題が起こらないセッティングにすると、全部が100点の性能にはできないのだという。
この辺にBMWアルピナの少量生産のメリットがあるのだ。年間たった1700台しか造らないカーメーカーだから、1台ずつを最高のスペックにできるのだ。
XD3に搭載しているエンジンは、直列6気筒ビ・ターボ(ターボ2基)のディーゼルである。最大トルク700Nm/1750−2500rpm、最高出力245kW(333ps)/4000−4600rpmを発揮する。いざとなれば0-100km/hは4.9秒と俊足だが、アクセルペダルの反応はあくまでもジェントルで扱いやすい。過敏な動きではなくドライバーの意思に忠実に動いてくれるから扱いやすい。単にトルクが太いだけでなく、その盛り上がりにはパンチがある。
ディーゼルなのに高回転までスムースに回ってくれるのは、直列6気筒だから当然だが、アルピナはそれ以上に滑からなのだ。それは1人のマイスターが1基のエンジンを一から組み立てるからだ。ピストンの重量を測り6個のピストンの重量の差が少なくなるように選び、燃焼室の容積も計測して合わせていくという作業をしている。シャシーナンバーかエンジンナンバーが分かれば、そのエンジンを組み立てたマイスターに会うことも可能なのだ。
こんなスペシャルなアルピナは、XD3に限らずそばに1台欲しい。
最新のモデルが最良という言葉を、最新の992型911で実体験することができる。
筆者が生まれて初めて911を体験したのは1984年モデルのカレラで、1984年の春に鈴鹿サーキットのフルコースで乗った。タイヤテストだったので、恐る恐る走るのではなく最終的にはタイヤ毎にグリップ限界を超えたところまでチェックしなくてはならない。このときリヤの滑りをアクセルコントロールで調整できる幅の広さ、その奥の深さ、そしてドライビングの楽しさを味わい、すっかり911ファンになった。
それから各年代の911を味わっているが、やはり最新のモデルが最良だということを実感する。だからこれから何年か経って次の911が登場したら、人生最後のモデルはそちらになるかもしれない。
992型の911のどこが良いのかというと、まず第一にものすごくしっかりしたボディ剛性を持っていること。もちろん歴代の911もそれぞれの時代で他車とは比べものにならないほどのボディ剛性の高さを誇ったが、992型は先代のロールケージがついたモデルほどの剛性の高さに感じる。
ボディ剛性が高いだけでなく、サスペンションの遊びがなくしっかりしながらしなやかに動く感触、ステアリング系の遊びがなく切り始めからダイレクトな感触で反応するところもいい。しかもその反応は過敏でなく、また遅れなく舵角にリニアにノーズが動いてくれるところも素晴らしい。それはたった30km/hからでも味わえる。
アクセルペダルの反応も同様で、踏み込み量に応じたトルクの出方で扱いやすい。鈴鹿で感じたアクセルコントロールの幅の広さはコーナリング時にリヤの滑りをコントロールするために使うが、992型でも同じベクトルで作られていて、それが進化していることがよくわかる。
エンジンはハイパフォーマンスだがドライバーの意のままに操れることがドライビングの嬉びだということが、ポルシェの開発者はわかっているのだろう。
そんなクルマはそばに置いておきたい。
超高級車の二大巨頭、ロールスロイスと並ぶベントレーの4ドアサルーンであるフライングスパーは、ラグジュアリーサルーンとしての風格とスポーティドライビングができるポテンシャルの両方を持ち合わせているところが魅力だ。
2020年モデルのフライングスパーはフルモデルチェンジにより大幅な進化を果たした。堂々とした風格はそのまま、よりスポーティな走り、よりドライビングを愉しめるクルマになった。
一番大きな変化はフロントアクスルの位置を130mm前進させたことだ。これによりホイールベースも130mm伸びてよりゆったりした乗り心地も期待できる。これによるデメリットは最小回転半径が大きくなってしまうことだが、逆位相4.1度、同位相1.5度まで動く4WSを装備することにより小回りも効くようになっている。
フロントアクスルを前進させた最大の理由は前後の重量配分を良くすることである。これまでよりもフロントアクスルに掛かる重量が減り、その分リヤアクスルに掛かる重量が増え、前後50:50にすることができた。これでタイヤのポテンシャルを最大限に引き出し、ハンドリング性能を引き上げることができる。結果として大柄で重量級のクルマであるにもかかわらず、BMW3シリーズのような軽快なフットワークを味わうことができるのだ。
フライングスパー・ファーストエディションが履いているタイヤは前275/35ZR22(104Y)XL、後315/30ZR22(107Y)XLのP ZEROで、これだけのサイズだとホイールも含めて相当重いはずだが、足元のブルブル感がなく高速道路はもちろん、市街地での不整路面でもうまくいなしてくれトヨタセンチュリーより快適な乗り心地を味わえる。
もちろんインテリアの仕上がりも超高級で文句のつけどころがない。イギリスの王室の世界を垣間見るような感じだ。目の保養になるだけでなく、肌触りに関しても世界のセレブでも満足できるあろう。
ウイークデイはショーファードリブンで、週末は自身でドライブというスタイルもいいが、筆者なら毎日運転してしまうだろう。
■菰田潔(こもだ・きよし)
1950年神奈川県生まれ。本業はモータージャーナリスト。2019年9月にBOSCH認定CDRアナリストの資格を取得。CDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)で事故データを抜き出しそれを解析する仕事も始めた。
あとどれだけクルマに乗れるだろうか。一度きりの人生ならば、好きなクルマのアクセルを全開にしてから死にたいもの。ということで、『乗らずに後悔したくない! 人生最後に乗るならこの3台』と題して、現行モデルのなかから3台を、これから毎日、自動車評論家・業界関係者の方々に選んでいただく。明日の更新もお楽しみに。(モーターファン.jp編集部より)