TEXT;髙橋一平(TAKAHASHI Ippey)
吸排気の効率の良さはレシプロ内燃機関が常に目標とし続けている要素であり、そのためには燃焼室のすべての部分がポートとなり、エネルギー損失を伴わずに行なえる吸排気動作が理想といえるが、現実は理想とは程遠い。そんな理想と現実を分け隔てる最大の要素、それは円形の燃焼室と複数個必要とされる丸いバルブだ。
とはいえ、円形の燃焼室の源となる、丸いピストンと、やはり丸い傘を持つポペットバルブは、レシプロ内燃機関を成立させるうえで最も大切な要素のひとつ。円形ほど相似形が容易に作り出せ、また圧力を密封するうえで都合の良い形は、ほかには存在しない。それ故にピストンにもバルブにも円形が用いられているわけで、円形以外のピストンや、ポペットバルブ以外のバルブ機構も試みはあったものの、少なくとも世の中のピストンやバルブを全て置き換えるほどの成功に至った例は未だ存在しない。
そこで、ピストンとバルブは従来のまま、バルブの数を増やすことで、バルブ面積を増やそうという試みが行なわれた時期もあったわけだが、結局は古くから存在している4バルブに落ち着いている(5バルブは一部で成功例も見られた)。最も重要なバルブ開口面積(カーテン面積)は隣接するバルブが増えるほど、無効な面積も増え、4つ以上にバルブの数を増やしても、労力に見合った効果が得られることはなかったのである。