市販車における高膨張比サイクルとしては、これまで遅閉じ型が主流だった。下死点を越え圧縮行程に入ってもなおバルブを開いたままにしておく遅閉じ型では、吸った空気を吸気ポートに戻す格好になる。エンジンが低回転なら戻す量は多く、高回転になるにつれてその量は減っていく性格であり、回転が高まるほど空気の量を必要とするエンジンという機械にマッチする。いわば、低回転域での無駄を省けるのが遅閉じ型の特長と言える。
一方の早閉じは逆の性質。だから高回転域で吸入空気量を確保するためにはカムフェーザー(VVT)などを用いて閉じるタイミングを遅く(つまり早閉じ制御をキャンセル)する必要がある。ターボを備えていれば高回転域の際に過給圧を高めれば解決できる。
早閉じ型のメリットはどこにあるかといえば、フリクション低減と筒内温度の低下が図れること。前者についてはバルブをバルブシートに押し付けている時間が短いこと、後者については早閉じによって密閉したシリンダーの体積がなお増えることで断熱膨張を見込めることがあげられる。
自然吸気が主体の日本勢では遅閉じ型が多く、アウディ/フォルクスワーゲンが「ライトサイジング」として打ち出してきたエンジンが早閉じを採択したのはターボ過給を前提としているからだろう。
ちなみに、吸気バルブを遅閉じとしているトヨタのプリウスでは、これをしてアトキンソンサイクルと呼んでおり、1.5 TSI evo(エンジン)のそれを下死点前で閉じてしまうフォルクスワーゲンはミラーサイクルと呼称しているのだが、厳密に言えばこれらはすべて「ミラーサイクル」である。