オープンデッキはその構造からシリンダーが動くことが心配され、燃焼圧の高いディーゼルエンジンやハイパフォーマンスユニットにおいては採用が見送られてきた歴史がある。しかし、近年のディーゼルエンジンはオープンデッキ構造を採用するものが増えている。その理由を畑村耕一博士の『エンジン手帖』から抜粋してみる。
(ダイムラーOM642の)シリンダーブロックは鋳鉄ライナー入りのアルミ合金製で、クローズドデッキ(ブロック上面のウォータージャケットが閉じとる)。この頃まだオープンデッキは世界的に難しいと言われとった。音がうるさいとか剛性が確保できんという考えじゃが、ワシに言わせれば迷信にすぎん。オープンデッキのほうが上手に作りゃあもっとええ。
かつてはシリンダーブロックの剛性を保つのに、ブロックの上面をつないで剛性を高める考えが主流だった。上で支えた方が、ガスケットのシール性が上がると考えられていたわけじゃ。そうではなく、ブロックの下で支えるのが最新テクノロジー。昔(というのは1980年代頃)はアスベストなどを用いた柔らかいガスケット(「あんこ」と言っとった)を使っていたので、きちんと支えられなかった。ところが、メタルガスケットがうまく使えるようになってからは、ぴたっと押さえられるようになった。
ガスケットが「あんこ」のときは、ガスが漏れないようシリンダーをシールする部分は厚めにしてがっちり締め込んだ。対照的にウォータージャケットの部分は薄くして、あまり強く押さえないようにした。ところがこれをやると、ライナーは下に押され、反対に外壁はボルトに引っ張られてボルトの近くが持ち上がる。下向きと上向きの力が交錯するので、ガスケットにかかる面圧がばらばらになり、面圧の低いところからガスが漏れて、ろくなことはなかった。オープンデッキとメタルガスケットの組み合わせは、最初は恐る恐るじゃった。だが、やってみたら、意外と調子が良かった。メタルガスケットを挟んでヘッドとブロックを締め付けてみると、連なったシリンダーライナー全体がコンマ1mmくらいすっと落ち、外側はちょっと持ち上がる。面圧は均一で、シール性は高い。しかも、エンジンが温まってくるとシリンダーが延びるから、ガスシールしているところはますます面圧が上がる。ヘッドとブロックががっちり合わされば一体のようになるんで、ウォータージャケットの下でライナーと外壁をがっちりつなげばええ。
ついでに説明しておくと、シリンダーヘッドも燃焼室で発生する燃焼圧力を支えにゃあいかん。ヘッドも昔は下面の肉厚で剛性を高める思想じゃった。これも最近は下をほどほどにし、上で剛性を確保する流れ。厚い上面でポートを柱として使って下面を抑える。つまり、ヘッドの上とブロックの下で剛性を確保するのが正しいんじゃ。真ん中で剛性を確保しようとすると、熱でゆがみ、そのゆがみが全体に伝わってしまう。じゃから、ヘッドの下面を厚くしてはいかん。熱が加わっても大きな変形が出ないように、そこそこ柔らかめにするんがええ。
これがワシの考えるエンジン設計の基本じゃが、世の中のエンジンはどこまで守っとるか。マツダのスカイアクティブはこれをようやっとる。ちなみに、ガソリンエンジンはオープンが基本。燃焼圧力の高いディーゼルに比べて音の面で楽だし、シール性も問題にならんからじゃ。
(談:畑村耕一博士/まとめ:世良耕太)
両者のいいところ取りを狙ったセミクローズドデッキというブロックも存在する。シリンダーを上端面ではなく、ボア中間部で柱を立てて支えている。