REPORT●青山尚暉(AOYAMA Naoki)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2020年4月発売の「日産ルークスのすべて」に掲載されたものを転載したものです。
今、日本で最も売れているクルマのベスト6はなんと軽自動車。それもベスト4のうち3台が両側スライドドアを備えたスーパーハイト系だ。具体的には1位N-BOX、3位タント、4位スペーシアの順。では、そこに割って入った2位はと言えば、ハイト系ワゴンの日産デイズ(2020年2月のデータ)。日産が初めて一から開発した軽自動車であり、2019-2020年日本カー・オブ・ザ・イヤーのスモールモビリティ部門賞受賞車でもある。
そのデイズの登場時から新型に期待が集まっていたのがデイズの兄弟車、スーパーハイト系の日産デイズルークス改め、日産ルークスである。
ここでは新型日産ルークス、及び強豪ライバルとなるN-BOX、タント、スペーシアを用意。中でも、一家に一台のファーストカーになり得る、上級車&ミニバンからのダウンサイザーにも相応しいカスタム系ターボを揃え、スーパーハイト系ならではのオールマイティな使い勝手と走行性能を徹底比較することにした。
まず、新型ルークスの概略から。基本部分はもちろんデイズだが、先代デイズルークスに対してホイールベースを㎜伸ばし、全高を5㎜高めている。標準車とカスタム系の「ハイウェイスター」を用意しているのはもちろん、パワートレーンはデイズで新開発したスマートシンプルハイブリッド採用のNA、ターボエンジンを揃え、「ハイウェイスター」には高速道路同一車線運転支援技術となる「プロパイロット」装着車も設定する。
デイズで軽自動車に初採用された緊急通報サービス=SOSコールや、クラス唯一の電動パーキングブレーキの採用にも注目したい。
ターボエンジンの最高出力は全車共通の㎰ながら、最大トルク10.2kgmをライバルより低い2400-4000rpmで発揮。JC08モード燃費はクラス最上の22.6㎞/ℓだ。
さらに新型ルークスの大きな特徴点として挙げられるのが、先代より
64㎜も高められた、ミニバンのセレナに迫る前席アイポイントの高さや、Bピラーの前方移動によるスライドドア開口幅の拡大(先代比+95㎜!)、そして後席5:5分割320㎜のロングスライド機構などだ。
N-BOXはホイールベース2520㎜、全高1790(FF)とどちらもクラス最大。ホンダ独創のセンタータンクレイアウトによる室内空間の圧巻の広さ、ラゲッジフロア、後席格納時のフロアの低さ、多彩なシートアレンジ性などが絶大なる人気の理由。ターボのJC08モード燃費は25.0㎞/ℓだ。
ダイハツの新基本骨格DNGA採用第一弾のタントは、エンジン、サスペンション、世界初のパワースプリット技術によるデュアルモードCVT、シートまで新開発した意欲作。助手席側Bピラーをドアに内蔵したミラクルオープンドアの採用はもちろん、その使い勝手を最大限に生かす、運転席最大540㎜のロングスライドシート(Pレンジ時のみ。スイッチ解除必要)を、助手席最大380㎜スライドともに採用し、子育て世代にアピール。ターボモデルのJC08モード燃費は25.2㎞/ℓだ。
スペーシアは標準車、カスタム、そしてSUVテイストある「ギア」をラインナップ。全車にISG(モーター機能付き発電機)とリチウムイオンバッテリーによるマイルドハイブリッドを採用。微力ながらもモーターアシストによる加速力や燃費の向上も期待できる。ターボモデルのJC08モード燃費は25.6㎞/ℓだ。
直列3気筒DOHCターボ+モーター/659㏄
最高出力:64㎰/5600rpm[モーター:2.0kW]
最大トルク:10.2㎏m/2400-4000rpm[モーター:40.0Nm]
WLTCモード燃費:18.8㎞/ℓ
車両本体価格:193万2700円
ここからは、スーパーハイト系軽自動車ならではのチェックポイントを項目ごとに比較していこう。
まずは前席の居住性。新型ルークスはベンチタイプのシートが基本で、「ハイウェイスターGターボプロパイロットエディション」にのみセパレートシートをオプション設定。実際に着座してみるとシートサイズは4台中、最もたっぷりしていて、なおかつ上級感のある分厚いクッション感とともに、ごく自然な着座姿勢が取れるのが美点。ミニバン並みの着座位置の高さは、車体前方直下の視認性の良さにも直結する。
運転席に着座すると、目線に対して相対的にインパネが低く、メーターフードなどの上方向の出っ張りは最小限。他車よりパノラミックな視界が特徴的だ。クラス唯一の電子パーキングブレーキの採用による足元の広々感でも大きくリードする。
N-BOXの前席はベンチタイプが基本で、助手席が570㎜スライドするスーパースライドシート仕様はセパレートシートとなる。カスタム系はクッションの厚み感とともに、シート表皮の質感、デザイン性の高さに見るべき点がある。タントとスペーシアの前席はベンチタイプのみだが、タントはお尻部分がじわりと沈み込み、体重で心地良いサポート性が得られ、背もたれも背中を優しく包み込むような快適感が特徴だ。スペーシアの前席はやや平板。着座の落ち着き感で物足りない印象だ。
スーパーハイト系軽自動車は子育て世代に圧倒的に支持されるクルマ。ゆえに後席の乗降性は見逃せないポイントだろう。スライドドア部分のステップ高は新型ルークス約350㎜、N-BOX約350㎜、タント約310㎜、スペーシア約345㎜。いずれも段差のないワンステップフロアだから数値の差こそあれど全車、足を運びやすいことは間違いない。
むしろ、子どもを抱いた母親にとって注目すべきはスライドドアの開口幅と開口高。新型ルークスはBピラーの前出しによって幅650㎜×高さ1235㎜。N-BOX同640×1240㎜。タントの助手席側ミラクルオープンドア同600×1200㎜(幅は助手席を筆者の運転席ドライビングポジションにスライドさせた数値)、スペーシア同600×1250㎜。子どもの抱き方(角度)に自由度をもたらす幅方向では、なるほど、新型ルークスに優位性がある。
後席の広さは4車ともに呆れるぐらい広い。身長172㎝の筆者がドライビングポジションを決めた背後に着座すると、頭上/シートスライド後端の膝まわり空間は新型ルークスが260㎜/400㎜、N-BOX250㎜/420㎜、タント270㎜/355㎜、スペーシア270㎜/330㎜。微差はあるものの、繰り返すが、後席スライド最後端位置だと広過ぎるほど広い。
むしろ注目すべきは掛け心地と立ち上がり性(降車性)。その点で褒められるのは新型ルークスだ。理由は快適性にこだわったシートの掛け心地の良さに加え、フロアからシート前端までの高さヒール段差が高く、椅子感覚で着座できるからである。
ただし、後席シート後端位置での立ち上がり性(降車性)に優れるのはN-BOX。シート下が空洞で、足が引きやすいのがその理由。新型ルークス、タント、スペーシアはシート下に燃料タンクがあり、シートスライド最後端位置では足が引けない。が、シートスライドを前出しすれば、足引き性(降車性)は解決する。
後席の快適度、それも暑い時期に限定すれば、エアコンの冷風を後席にもまんべんなく届かせることができるシーリングファン/スリムサーキュレーターを用意する新型ルークスとスペーシアが有利になるはずだ。
ラゲッジの使い勝手はどうか。軽自動車の場合、限られた全長のため、後席使用時のラゲッジスペースの奥行きは最小限。が、後席シートスライドによって奥行きを拡大できるから心配無用。ところで、スーパーハイト系軽自動車は前後シートのスライド機構にこだわりがある。タントは運転席540㎜のロングスライドを助手席380㎜スライドとともに用意。助手席側スライドドアから子どもを後席に乗せた後、車外に出ることなく運転席に移動できるミラクルウォークスルーパッケージを実現した。N-BOXは助手席570㎜のスーパースライドシートを前席セパレートシートとセットで設定。両車は、後席の子どもに(愛犬もそう)、前席の親が近付く考え方と言える。
一方、新型ルークスは逆で、後席320㎜ロングスライド(N-BOX190㎜、タント240㎜、スペーシア210㎜)で後席の子どもの方を近付ける発想だ。その利点は前寄りにスライド量を増やしたことでラゲッジスペースの奥行をより広げられること。具体的には、後席最後端位置のラゲッジ奥行は新型ルークス290㎜、N-BOX410㎜、タント260㎜、スペーシア310㎜。それが、後席を大人でも着座できる最前端位置にセットすると、奥行は新型ルークス675㎜、N-BOX600㎜、タント485㎜、スペーシア600㎜まで拡大。つまり、4人乗車で大荷物、という場面での新型ルークスの積載力は断トツだ。
重い荷物の出し入れに関わるラゲッジの開口部地上高はN-BOXの480㎜が最も低く、新型ルークス490㎜、スペーシア540㎜、タント590㎜の順になる。しかし、新型ルークスが偉いのは、N-BOX並みのフロアの低さを実現しつつ、クラスで唯一、〝使える〟床下収納を備えていること。ちなみに後席格納時のフロアのフラット度ではスペーシアに軍配が上がる。
直列3気筒DOHCターボ/658㏄
最高出力:64㎰/6000rpm
最大トルク:10.6㎏m/2600rpm
WLTCモード燃費:20.2㎞/ℓ
車両本体価格:199万6500円
直列3気筒DOHCターボ/658㏄
最高出力:64㎰/6400rpm
最大トルク:10.2㎏m/3600rpm
WLTCモード燃費:20.0㎞/ℓ
車両本体価格:178万2000円
さて、各車の走行性能について。新型ルークスはスマートシンプルハイブリッドによって出足から実にスムーズかつ静かに発進。そこからの加速もよどみなく、ターボということもあって文句なく軽ターボ最上の加速力を発揮。乗り心地はデイズの場合、転がり抵抗、燃費重視のタイヤのおかげでやや硬めの乗り心地を示すのだが、同タイヤでも車重増によって、よりしっとり快適なフラットライドに終始。段差やマンホールの乗り越えでも、理想的なマナーとショック、音、振動の少なさを実現している。また、巡航中の車内の静かさも軽自動車の域を超えている。
特筆すべきは、日産の走りのマイスターが手掛けた操縦安定性の高さだ。カーブ、山道を勢いよく走っても、車体の傾きは最小限。かつ、路面に張り付いたかのような安定感を見せつけてくれるのだ。デイズも山道の下りでスポーティカーについていけるほどの操縦安定性に驚かされたものだが、車高、重心の高い新型ルークスで同様の走りの良さを実現しているのだから、驚くしかない。
N-BOXはアジャイルハンドリングアシストなどによる安定感を保ちつつも、比較的ゆったりとした操縦性が特徴だ。ターボエンジンのパワー、トルクはさすがホンダ車らしく活発で、下手にブレーキを踏むよりスムーズな減速、スピードコントロールが可能になり、一段と力強い加速力が得られるパドルシフトも備わるのだが、常用域の2000〜3000rpmあたりでゴロゴロするのが気になる人にとっては難点。むしろNAエンジンの方がすっきりスムーズに回る。乗り心地は熟成され、今では硬めながら上質なタッチを示すのが特徴だ。
タントの新ターボエンジンは出足からスムーズそのもので、トルクもきっちり出ているからアクセルの踏み加減に関わらず気持ち良く、特に低速域の走りやすさは抜群で、車内の静かさも終始、ハイレベル。乗り心地はNAモデルに対してよりフリクションを低減した高性能ダンパーを用いているため、硬めながらも上質で極めてフラットなタッチを示す。
それは、前席はもちろん、後席も同様だ。ただし、前輪のインフォメーションが、例えば新型ルークスやN-BOXと比べると不足気味で、距離を重ねた試乗車では段差を乗り越えた際など、他車では感じられない足まわりやボディまわりからの振動、キシミ音が気になることもあった。
スペーシアのターボエンジンは低回転からしっかりトルクが出ていて、しかもすっきりスムーズに回り、パワーモードも備え、速く、爽やかな動力性能の持ち主と言える。乗り心地も洗練されていて、ストローク感としっかり感あるドシリとした乗り味が好ましい。ただ、シートは前後席ともに平板で、パワーステアリングの、切っていくと急に軽くなりがちな人工的味付けは好みが分かれそう。
スーパーハイト系軽自動車のターボモデルとなると高速走行、ロングドライブの機会も多いはずだが、そこで威力を発揮するACC(アダプティブクルーズコントロール)機能は、新型ルークス(「ハイウェイスター」の「プロパイロットエディション」)、タント(ターボのみ。渋滞時の停止保持は2秒)、N-BOX(全車)に用意されるが、完全な停止保持を含む渋滞追従機能付きACCは新型ルークスのみ。一時停止時にブレーキを踏み続けなくていい、日常的にも便利なオートブレーキホールドが付くのも新型ルークスだけだ。
こうして新型ルークスを軸にスーパーハイト系軽自動車を比較してみると、渋滞追従可能なACCとレーンキープ機能を含むプロパイロットの設定や前後踏み間違い〝ブレーキ〟アシスト(タントも)、あおり運転被害時にも役立つSOSコール、スマホ不要の専用車載通信機(ドコモのSIM)と日産コネクトナビによるオペレーターサービスの用意などの先進安全運転支援機能、安心装備の充実度は圧巻。子育て世代にうれしい後席の乗降性、後席ロングスライドによるキャビンとラゲッジルームの広さのバランスの取りやすさ、さらには走行性能の洗練度で、さすがに最新の日産ルークスの商品力が突き抜けている。もはやタント、スペーシア、そして、これまでスーパーハイト系軽自動車の絶対王者の座を死守してきたN-BOXもうかうかしてはいられないということだ。
直列3気筒DOHCターボ+モーター/658㏄
最高出力:64㎰/6000rpm[モーター:3.1㎰]
最大トルク:10.0㎏m/3000rpm[モーター:5.1㎏m]
WLTCモード燃費:25.6㎞/ℓ
車両本体価格:182万500円