レシプロエンジン部品の花形(?)ピストン。サイクルによる違いはもちろんのこと、そのエンジンが何を求めているのかによってさまざまに形状を異ならせる。その形の理由とは。

 ピストンは燃焼温度と圧力に耐えてコンロッドに運動エネルギーを与えるのが任務であり、燃焼そのものやシリンダーヘッドの構造と密接な関連性を持っている。直噴のディーゼルエンジンでは、燃料をシリンダーに噴射して燃焼を開始する都合から、ピストン頂部に窪みを設けてそこを燃焼室とする。基本的に平滑なガソリンエンジンとはまったく様相が異なる。2ストロークエンジンではシリンダーヘッドにバルブがないため、燃焼室形状が緩いドーム型であり、それに対応してピストンの頂部も緩やかに盛り上がっている。

1970年代の日産L20のピストン。 冠面は真っ平ら。

「基本的に平滑」な4ストロークガソリンエンジンも、その冠面形状には時代変化がある。市販車のエンジン性能が低かった頃は、エンジン本体を大幅にチューンアップすることが各国で行なわれたが、その際に手が付けられたのはカムシャフトとピストンだった。圧縮比がNAでも8前後だったから手っ取り早く圧縮比を上げるために「ハイコンプピストン」と称される頂部が盛り上がったピストンが数多く出回った。カムのプロファイルを過激にしてリフトを大きくすると、大きなバルブオーバーラップのため上死点時にバルブがピストンと衝突するリスクを回避するために、バルブの逃げである「リセス」を設けるようにもなった。

バルブリセスを設けたピストンの例。

 バルブリセスはカム駆動の抵抗削減のためにタイミングベルトを使うことがブームになると、市販車のピストンにも設けられるようになる。往時のタイミングベルトはしばしば切れることがあったため、バルブのリフト量よりそちらが問題となったのだ。ベルトより耐久性のあるチェーン駆動に回帰すると、ピストンの頂部は平らになり、スキッシュエリア確保のため外周部に少し凹みがある形状へ変化する。

マツダ・スカイアクティブGのピストン。中央部に窪みが穿たれる特殊な形状。

 ガソリン直噴エンジンが出回り始めると、機構的に同類のディーゼルエンジンのようなキャビティがピストンに設けられるようになる。とはいってもこの部分が燃焼室になるわけではなく、暖機時にプラグ周辺に濃い混合気を作るためと吹いたガソリンが飛び散ってボア壁面に付かないよう(ノッキングとオイル希釈の防止目的)にするためで、インジェクターの設置位置や角度によってキャビティの形状・大きさは各社まちまちである。

GM・Ecotecのピストン。形状をスプレーガイデッドと称する。直噴インジェクタとピストン冠面の関係がよくわかる。

 バルブリセスも復活した。チェーン駆動だから切れる心配はないのに。その理由はVVTだ。普通のカムなら上死点ではバルブはほとんど閉まっているが、VVTは掃気のためにオーバーラップを大きく採るのに使われるため、上死点付近でバルブが開いている状態が発生するからだ。ピストンメーカーの技術担当者に話を訊いたところでは、直噴+VVTのピストン冠面設計は本当に難しく、自動車メーカーの設計仕様からさらに一考することが多々あるという。

ディーゼルエンジンではピストン冠面に燃焼室を設け、燃料をその窪みに集めて噴射し火種を生成して燃焼させる。加えてオイル希釈防止の役割を担う。くぼみの内部で混合気形成と燃焼をするので、その形状と燃料噴射がポートやバルブの制約がない代わりに燃焼効率を決定することから、くぼみ形状はエンジン性能を左右する。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 内燃機関超基礎講座 | 平らだったりくぼみを付けたり盛り上げたり。ピストン冠面の形の理由 マツダSKYACTIVエンジンの冠面はどうなってる?