そう語るのは、新型シルビアの開発総括責任者を務めた川村絋一郎だ。川村は開発にあたって、保管されていた初代シルビアを持ち込み、つくりや雰囲気をスタッフに示しながらスペシャルティカーの本質を考え直すことから始めたという。
日産のスペシャルティ路線は、レパード→シルビア→RZ1→エクサといった系列だが、スタイリッシュさやカッコよさに対する狙いがボケているのではないか?という反省から、デザイナーに「日産という会社のイメージを背負って引っ張っていくくらいの商品をつくってみよう」と示し、自由にレンダリングを描くように依頼した。
狙ったのは、自動車が生活の中に当たり前に存在している世代のセンスに応えられるクルマ。すなわち、遊び心を誘われるモダンで洒落たクルマだが、乗った時にはしっくりと身体を包み、温かみのあるインテリアだった。「ともかく乗って楽しいクルマであること、そしてその楽しさが周囲にも伝わってくるようなクルマをつくりたかったのです」と語った。
スタイリングでは、街中では景色に溶け込んでいるものの、目を引く端正さを出すために「グラマラス・フェンダー」や「カプセル・リヤウインドウ」が考案された。
しかし、シルビアで最も苦労したのは室内のムードづくりだったという。想定するユーザーはクルマに対して洗練された感覚を持っており、なまじな装飾で目を引こうとしても太刀打ちできない。なので、室内全体がまとまりのあるデザインで統一されていなくてはいけない。そのため、インパネは滑らかな曲線で継ぎ目をなくし、ゴチャゴチャした印象がなくスッキリさせた。また、スイッチ類も単に機能を果たせるだけでは物足りないだろうと考え、コストは掛かるがシルビアだけの新デザインが採用された。
走行面ではFRの操縦性を満足させながら、しっとりとした乗り心地を確保するためにマルチリンク式のリヤサスが採用された。エンジンのバリエーションはターボ付きのCA18DETと自然吸気のCA18DEの2種類。俊敏で軽快なフィーリングを出す点でCA18系エンジンの吹け上がりの良さと軽量さが最適だったという。
開発を進める段階で、ちょうどシルビアが想定している年代のスタッフの中から「これはたしかに自分たちのクルマだ」という意見も出た。それは、エクステリアとインテリアそして走行フィーリングなどが想定したものと合致していたことの証明であった。