当時はレーシングカーの騒音規制がほぼないに等しい時代だったので、排気管に戻してサイレンサーを通すようなことをせず、直接大気開放とする使い方が多かったのだが、一般的な量産ロードカーではそのような手法が許されるはずもない。そこで生まれたのが、ターボのタービンハウジングにスイング式のバルブを内蔵するという手法で、このかたちは現代も引き継がれている。
ターボによって生み出される過給圧(ブースト圧)の過度な上昇を抑えて、エンジンを保護するというウェイストゲートの役割は、ポペットバルブを用いる別ユニット型も、スイングバルブ式のタービンハウジング一体型も同じで、その作動(バルブの開閉)にターボのコンプレッサーで圧縮された空気の圧力、すなわち過給圧を用いるという手段も共通だった。制御対象である過給圧を制御に用いるという手法は、単純でありながらも確実であったためだが、いっぽうではターボが普及していった1970年代から1980年代にかけての時期はまだ電子制御技術が未熟であったため、他に選択の余地がなかったという事情も存在していた。
その後1980年代後半に入ると、電子制御技術の進歩にともない、過給圧を利用するという手法にはソレノイドバルブを用いた制御が加わるようになる。これはアクチュエーター内部のダイヤフラム部に導かれる過給圧をデューティ制御のソレノイドバルブでコントロールすることで、ウェイストゲートの開閉タイミングをある程度任意に制御できるというものだったが、アクチュエーターの駆動力の原資は依然として過給圧であったため、制御の範囲は限定的だった。
ウェイストゲートの制御が完全な自由を獲得するのは、電動式アクチュエーターが普及する2000年代以降のこと。その登場は1990年代後半であったが、それを制御する車載ECUの能力などが成熟し、またアクチュエーター自体の信頼性といった基礎体力が向上して、電動アクチュエーターならではのメリットが十二分に享受できるようになるには、さらに2010年代まで時代を待つ必要があった。
エンジンの保護という役目も担うウェイストゲートの電動化には、信頼性の確保が必須だったわけだが、それを乗り越えた今日、ウェイストゲートは過給圧への依存から解き放たれ、その制御自由度は大幅に拡大している。