15年以上にわたってビンテージバイクのカスタマイズを手掛けているビルダーのベニー・トーマス氏が、もっと気楽に、なおかつ信頼して乗れるバイク作りを目指して2013年に立ち上げた英国ブランドがマットモーターサイクルズだ。ラインナップは125ccが7機種、250ccが6機種で、今回は17Lの大容量タンクを唯一採用するフラッグシップ、マスティフ250に試乗した。果たしてクラシックバイクの乗り味はどこまで再現されているだろうか。




REPORT●大屋雄一(OYA Yuichi)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

マットモーターサイクルズ・マスティフ250……671,000円

 ノートンやモトモリーニ、イタルモトなどを輸入販売しているピーシーアイが、2018年10月に取り扱い開始を発表したのが、イギリスのマットモーターサイクルズだ。2013年に初のコンセプトモデルを製作し、2016年に最初の200台を生産したばかりの新生ブランドで、母体および本店はイギリスのバーミンガムにある。

フレームはシンプルなダイヤモンドタイプで、全車がワイヤースポークホイールを採用。
ファットなタイヤと、それを際立たせるショートフェンダーは全車に共通。


 ラインナップは125ccと250ccの二本立てで、どちらもエンジンは5段ミッション採用の空冷シングル。それぞれにモングレル(雑種犬)という名のベースモデルがあり、装着パーツを変えることでラインナップを増やしている。ブレーキは125ccが前後連動タイプ、250ccはABSを標準装備。さらに250ccは125ccよりもスイングアームが50mm長いなどの違いはあるが、基本的なフォルムは全車共通となっている。

標準装着タイヤはティムソン製。中国の新鋭タイヤメーカーで、評判も上々だ。


 今回試乗したのは2019年11月に国内導入されたニューモデル、マスティフ250だ。ラインナップで唯一、17Lの大容量タンク(他は全て12L)を採用しているのがポイントで、それ以外にもCNC加工のヘッドライトステーやフロントフォークのトップキャップ、モンツァタイプのタンクキャップなど、キング・オブ・マットを名乗るにふさわしい高品質なパーツが随所に見られる。なお、車両価格は67万1000円。ヤマハ・SR400が58万3000円なので、それよりも8万8000円も高いということに。これについてのジャッジは後に触れるとしよう。



シート高の公称値780mmはSR400よりも10mm低いのだが、乗車1Gでリヤショックがほとんど沈み込まず、またシートベースの角が太腿の内側に強く干渉することもあって、身長175cmの私でも両かかとが浮いてしまう。ただし、乾燥重量が130kgと軽いため、信号待ちなど停止時の不安感は一切ない。


 実車と対面し、まず率直に感じたのはセンスの良さだ。主要なパーツをマットブラックで統一しているからこそ、シートとグリップラバーのブラウンが差し色として映えている。また、フォークのトップキャップやリヤショックのエンドボルトなど、大きめのネジを削り出しパーツとしているので安っぽさがない。長年、ビンテージバイクのカスタマイズを手掛けてきたメーカーだけに、どうすれば見栄えが良くなるかを熟知したパーツ構成となっている。




 それにしてもエンジンはどことなく見覚えのあるような……。そう、この空冷シングルはスズキのST250 Eのような造形だ。とはいえ、右側クランクケースカバーにはマットモーターサイクルズのロゴが入るほか、タペットキャップやオイルフィラーキャップには削り出しパーツを使用するなど、ここでも質感を高める演出がなされている。ちなみにST250は2017年9月にディスコンとなったが、アメリカではTU250Xという名前で販売が継続されているのだ。




 この空冷シングル、実際に走らせての印象は非常に良い。かつてのST250は、2008年に燃料供給がキャブレターからフューエルインジェクションに変更されたのだが、実用域でのトルクがやや薄まってしまったという記憶がある。これはST250に限らず、排ガス規制強化のためにやむを得ずFI化されたモデル、特に小排気量車ほどその傾向が強かった。


 マスティフ250もFIを採用しており、さらに当時よりも厳しいユーロ4をクリアしているのだが、低回転域からしっかりと実用トルクが出ている。またシングルらしい歯切れのいい鼓動感や、高回転域にかけての伸び上がりなど全域で好印象だ。具体的には、2速でスロットルを全開にすると90km/h弱まで引っ張れるほか、トップ5速は50km/h付近から使えるなど、かなりフレキシブルな特性が与えられている。スロットルレスポンスがいいと感じさせる要因の一つは、リヤスプロケットの取り付け部におそらくハブダンパーが使われていないこと。とはいえ無駄にギクシャクするほどではなく、多くのライダーはすぐに慣れるだろう。

漂う無国籍感。どんな服装で乗るかによっても周囲に与える印象は変わるだろう。

 ハンドリングは、太めのタイヤから想像したとおりのゆったりとしたバンキングと接地感の高さが特徴的だ。ファットタイヤと言えば、ヤマハのTW200やスズキのバンバン200などを思い浮かべる人も多いだろうが、この2台ほど倒し込みや切り返しは重くはない。また、ティムソン製のタイヤはブロックパターンでありながら舗装路でもしっかりとグリップしてくれ、深く寝かし込んでも滑り出しそうな気配がない。このグリップのいいタイヤに負けないほどの剛性があり、特に不満を感じなかった。唯一気になったのはリヤショックで、おそらくバネレートが高いために荒れた路面で跳ねやすい。フレームの剛性やフロントフォークの作動性には不満がないので、リヤショックを交換するだけでさらにバランスのいいハンドリングになるだろう。




 ブレーキは、マットモーターサイクルズは全車が前後にディスクを採用し、このマスティフ250も例外ではない。絶対制動力は必要にして十分といったレベルで、個人的にはもう少し軽い入力や短いストロークで利いてほしいところだが、これも慣れの範疇だろう。ABSの作動性は全く問題がなく、そのシステムをこれだけシンプルな車体に目立たないよう組み込んだことに感心させられる。




 昨今、ネオクラシックがブームではあるが、マスティフ250に搭載されている系統の空冷エンジンの基本設計は1982年に登場したDR250Sまで遡ることができるので、まさにホンモノのクラシックだ。それをFI化して信頼性と実用性を高め、シンプルでセンスのいい車体に懸架している。リヤショックやブレーキなど、ライダーが操縦で補わなければならない部分はあるものの、気が付けば心地良いエンジンフィールと大らかなハンドリングを楽しんでいたのは事実。67万1000円という価格は、センス良くカスタムされたバイクを新車で買えると考えれば妥当であり、そこに入荷台数が非常に少ないという希少性が加わるので、むしろ安いと思う人がいても不思議ではない。今後、要注目のブランドだ。

マスティフ250 ディテール解説

公式の諸元には249ccの4スト単気筒でミッションは5段、最高出力21hp(21.3ps)、最大トルク20Nm(2.0kgf・m)。
排気系は車体の左側で完結するという珍しいレイアウトで、サイレンサーはリバースコーンタイプ。容積は小さいのに消音性能は高い。


フロントブレーキはソリッドディスク+ピンスライド片押し式2ピストンキャリパーで、ABSを導入、標準装着タイヤはティムソン製のブロックパターン。サイズは前後とも120/90-18だ。
リヤブレーキはソリッドディスク+ピンスライドシングルピストンキャリパーのセット。リヤサスはツインショックで、プリロードのみ調整可能。スイングアームは丸断面パイプだ。


グリル付きの特徴的なヘッドライトはCNC加工のステーにて支持される。灯火類ではこのヘッドライトのみがフィラメント球を採用する。
スモークレンズ採用の前後ウインカー、テールランプはLEDを採用。


シートはダイヤモンドパターンのステッチ入り。内部のクッションが非常に薄く、座り心地は硬めだ。グラブバーを左右に装備する。
同じくダイヤモンドパターンのグリップを採用。バーエンドを含むコックピットにCNC加工のパーツを多用することで質感を高めている。


左サイドカバー内にはエアクリーナーボックスがあり、その下にABSユニットが見える。
右サイドカバーを外すとMFバッテリーにアクセスできる。その下には車載工具入れをレイアウト。


160km/hまで刻まれた指針式のスピードメーター。その中にあるのはオドメーターのみというシンプルさが粋だ。
スイッチボックスのデザインはスズキ車に近似している。操作性はもちろん良好だ。


マスティフ250 主要諸元

全幅:800mm


全高:1070mm


シート高:780mm


乗車定員:2人


排気量:249cc


乾燥重量:130kg


エンジン:フューエルインジェクション、4ストローク、シングルシリンダー


最大出力:21hp


最大トルク:20Nm


トランスミッション:5速マニュアル


フューエルタンク:17L


ブレーキ:ABSブレーキシステム


ホイール(前後):2.50-18


タイヤ(前後):18インチ チューブタイプ


規格:ユーロ4


備考:2年保証


価格(10%消費税込):¥671,000

情報提供元: MotorFan
記事名:「 ライダーの根源的な感情に訴えてくる稀有なシングルマシン