ILLUSTRATION:熊谷敏直(KUMAGAI Toshinao)
自動車のステアリングシステムは、1970年代半ばからは、「ラック&ピニオン式」の採用例が増えてきた。現在はほぼすべてが「ラック&ピニオン式」だ。ラック&ピニオン式とは、ギヤ機構に、ステアリングシャフトと同軸の小径歯車(ピニオンギヤ)と、それに対応するピッチの歯を刻んだ棒(ラックバー)を用いる、非常にシンプルなステアリングシステムである。ステアリングシャフトとピニオンギヤの回転数は完全に一致し、それに応じた量だけラックバーが左右に移動、ナックルを押し/引く力を伝えることでホイールを操舵する。
ラック&ピニオン式のステアリングシステムでは、ドライバーがステアリングホイールを操作してタイヤに角度を付けようとする力、その反力としてタイヤ接地面から伝わってくる力、さらにはサスペンションアームの動きに連動するタイロッドからの入力、すべてがピニオンギヤとラックバーの噛合い面にかかってくる。当然、相当の強度が要求され、余裕を見込んだ設定が望ましいが、様々な制約のなかでそれを実現するのは難しい。また、噛合い面の精度は操舵フィールを大きく左右する要素だが、操舵フィールが商品力だけではない重要な要素との認識が低い場合には、コストや作りやすさ優先の構造が見受けられるのが残念である。
ラック&ピニオン(rack and pinion)
遊星歯車機構のプラネタリー(小さい方の歯車を意味するピニオン)ギヤと、リングギヤ(内歯車)を平面展開したラックを組み合わせたのがラック&ピニオンだ。平面展開した内歯車をラックバーと呼ぶ。ピニオンギヤとラックバーの組み合わせにより、回転運動を直線運動に変換することができる。ピニオンギヤとラックバーは、平歯車とすぐばラックの組み合わせに加え、はすば歯車とはすばラックの組み合わせがある。
ウォームギヤ(worm gears)
ウォームギヤは大歯車と小歯車のペアを指し、大歯車をウォームホイール、小歯車をウォームと呼ぶ。大きな減速比をとることができるのが特徴だ。歯はねじのような連続形状をしており、実際、ねじを切るように作る。ウォームギヤは歯面のすべりが大きく焼き付きが起こりやすいので、ウォームとホイールの両方を鋼製にするのは難しく、ウォームホイール側に柔らかい材料を用いるのが一般的。焼き付かないようにする特殊な潤滑油の配合も欠かせない。