「売れ筋国産SUV長距離実力テスト」と題したこの企画では、2020年1~3月の販売台数ランキングで上位につけた国産SUV4台をピックアップ。SUVユーザーに多いであろうアウトドアレジャーや帰省での使用を想定し、各車とも約500kmを走行して長距離長時間での疲労度を測るとともに、都心の町中や高速道路、郊外の一般道やアウトドアスポット近隣の荒れた路面で走りの実力をチェックする。
2本目は2019年4月に国内復活を遂げた、トヨタのCセグメントSUV「RAV4」。東京都内の首都高速道路から中央高速道路を経由し、富士五湖周辺の一般道とワインディングへ。その後山梨県から神奈川県、千葉県内を周回して都心へ戻るルートを走行した。
今回テストしたのは、専用の内外装に加え、2.0L直列4気筒エンジンとCVT、後輪左右の駆動力を自在に配分できる「ダイナミックトルクベクタリングAWD」を採用し、オフロードテイストをさらに強めたグレード「アドベンチャー」。メーカーオプションのデジタルインナーミラー、インテリジェントクリアランスソナー、リヤクロストラフィックオートブレーキ+ブラインドスポットモニター、ハンズフリーパワーバックドアや、ディーラーオプションのT-connectナビ9インチモデルなど、約70万円分のオプションを装着していた。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●遠藤正賢、トヨタ自動車
この五代目で見せたRAV4の見事なまでの宗旨替えには驚きを禁じ得ない。そして、トヨタの並外れたマーケティング力に、改めて畏怖の念を抱いてしまう。
RAV4は1994年デビューの初代がクロスオーバーSUVのパイオニアとして日本で大ヒットしたものの、グローバル化とともに北米メインへと徐々にシフトしボディサイズが拡大。日本ではそれが受け入れられず、2005年デビューの三代目はフルモデルチェンジされることなく2016年に販売を終了している。しかし欧米などでは2013年に四代目へ世代交代し、その間にアメリカでは最量販車種に成長した。
にもかかわらず、この転身ぶりである。セグメントを問わず乗用車ライクなクロスオーバーSUVが供給過多になり飽きられ始め、その一方でアウトドアギアのファッション化を反映して新世代の本格オフローダーが軒並み大ヒットするようになった2018年春。トヨタはRAV4を、中身は新世代のGA-Kプラットフォームに一新しつつもモノコックボディのFF車をベースとしたまま、本格オフローダーさながらのデザインと悪路走破性を持つ五代目へと生まれ変わらせた。
そして2019年4月、日本市場に復活。同年5月15日までに約2万4000台を受注する大ヒット作となっている。しかも全体の約9割が4WD車で、かつ「ダイナミックトルクベクタリングAWD」搭載車は全体の約3割(ガソリン車のうち約6割)。そしてユーザー層は20~30歳代が約4割を占めたというから恐れ入る。
そんな新型RAV4「アドベンチャー」のフロントマスクは、専用のバンパーとグリル、4つの凸部を設けた明るいシルバーのスキッドプレートで押し出しを強めている。シンプルで美しいデザインを至上とする筆者にはやや気恥ずかしさを感じさせる類のものだが、オフロードテイストの強い新型にはよくマッチしており、またこれが購入ユーザーに好評とあらば、最早何も言うことはあるまい。
またボディサイドには専用の大型ホイールアーチモールと切削光輝+ブラック+マットクリア塗装の19インチアルミホイール、リヤにも専用のスキッドプレートとマットブラックのエンブレムが装着されているが、「アドベンチャー」専用色かつ唯一のソリッド色である「アーバンカーキ」のボディカラーも手伝って、全体的にシンプルにまとめられている印象。窓ガラスはいずれもスクエアで大きく、見るからに視界が良さそうだ。
室内に目を移すと、「アドベンチャー」専用のオーキッドブラウン内装は明るくポップな色使いながら質感は高く、そして何より機能的なのが好印象。水平基調のインパネは高さが抑えられているため圧迫感が少なく、エンジンフードの左右前端が見えるため車両感覚も掴みやすい。加えてドアグリップやシフトレバー、エアコンダイヤル、ドライブモードダイヤルが、手袋を着けていても大きく握りやすく滑りにくい形状・素材となっているため、冬の豪雪地帯でも使い勝手に優れること請け合いだ。
「アドベンチャー」はシートも専用品で、特にフロントはサイドサポートが強化された「スポーティシート」となる。前後席ともシートサイズは大きく、側方・後方の視界も各部のクリアランスも広いのだが、合成皮革の生地は張りが強く、身体に合わせて変形しにくいためフィット感に乏しいのが惜しまれる。
後席使用時でも9.5インチのゴルフバッグを4個収納できるというラゲッジルームは、絶対的な空間が広いだけではなく立方体に近い形状のため、嵩張る荷物でも積み下ろしが容易で空間を無駄なく使うことができる。またデッキボードを反転し樹脂製の裏面を露出させた状態でも使用できるため、大人4人でアウトドアレジャーを楽しむにも重宝することだろう。
前述の通りオフロード志向を全面的に強めた新型RAV4ではあるが、それを長距離長時間、オンロードで走らせた場合はどうなのだろうか? 結論を先に言えば、オフロードなど過酷な走行環境でも走りやすい味付けと電子制御を備えるものの、本籍はやはり都会のオンロードだった。
オルガン式のアクセルペダルはハッキリと重く、またM20A-FKS型2.0L直4NAエンジンも最大トルク207Nmを4800rpmで発生する、SUVとしてはやや高回転型な性格。車重も1630kgに達するため、アクセルペダルを軽く踏んだだけでは緩慢な加速しか示さない。だがしっかりと踏み込めばその分だけのトルクが発生するため、速度の調節、何より維持は非常に容易だ。このような特性ならば、底が厚く硬いスノーブーツを履いていても、また雪道やオフロードを走行しても、過度にスリップさせることなく走れるだろう。
なお、ドライブモードは「NORMAL」のほかオンロード向けの「ECO」「SPORT」、オフロード向けの「ROCK &DIRT」「MUD &SAND」「SNOW」が用意されているが、いずれも極端にダル、あるいは過敏なスロットル特性にはなっていない。「ECO」モードで高速道路を走っても、加速時にストレスを感じることはなかった。
乗り心地やハンドリングに関しては、細かな凹凸を綺麗にいなして車体をフラットに保つのが得意科目。GA-Kプラットフォームの重心の低さも手伝って操縦安定性は高く、高速コーナーの多い中央自動車道でも常に安心して走ることができた。
河口湖ICから一般道に降りて、本栖湖外周のワインディングへ。ここでは「ダイナミックトルクベクタリングAWD」と、ブレーキによるトルクベクタリングも統合した「AIM」(AWD Integrated Management)がその本領を発揮する。
ターンインの際は後輪内側に多くブレーキをかけてアンダーステアを抑制。立ち上がりでアクセルペダルを踏み込んでいくと、今度は後輪外側に多く駆動力を配分しヨーを発生させることでニュートラルステアを維持する。さらにドライブモードを「SPORT」にしマニュアルモードを駆使すれば、変速時にややシフトショックはあるものの、より素早く緻密に加減速をコントロールするのも可能になる。そのおかげで、全高1690mm・車重1630kgとは思えないほど軽快にタイトコーナーを旋回できた。
なお、別の機会にはクローズドのダートコースで高速旋回を試せたが、ここではゼロカウンターステアを当ててのドリフトも自由自在。またモーグルやキャンバー路、20°の急斜面を持つオフロードも、「ROCK &DIRT」および「MUD &SAND」モード、また「ダウンヒルアシストコントロール」を駆使すれば、危なげなくクリアすることが可能だった。
このように新型RAV4「アドベンチャー」は、少なくとも現状では、コンディションの良い舗装路をそこそこのペースで走るのが最も快適であり、その点では歴代モデルと変わらない。コンディションの悪い舗装路はもちろん、岩場を長時間走り続ければ、クルマよりも人間の方が先に参ってしまうだろう。
餅は餅屋。本気で悪路を走るならやはり、同じトヨタならランドクルーザー(プラド)のような本格オフローダーを選ぶべきだ。裏を返せば、走行距離の9割以上が町中や高速道路で、年に1~2回悪路を走る機会があるというユーザーには、RAV4「アドベンチャー」は最高の相棒となるに違いない。
■トヨタRAV4アドベンチャー
全長×全幅×全高:4610×1865×1690mm
ホイールベース:2690mm
車両重量:1630kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1986cc
最高出力:126kW(171ps)/6600rpm
最大トルク:207Nm/4800rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:235/55R19
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:15.2km/L
市街地モード燃費:11.5km/L
郊外モード燃費:15.3km/L
高速道路モード燃費:17.5km/L
車両価格:319万5500円