REPORT●青木タカオ(AOKI Takao) PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)
『ランブレッタ』のネーミングは、鋼管メーカーのイノチェンティ社が1947年に設立し、ミラノの“ランブラーテ”という地に工場があったことに由来します。50年代に人気を博し、ベスパと双璧を成すブランドになりますが、71年に工場閉鎖。90年代まで、インドのSIL社がライセンスを買い取り生産を続けていました。
イノチェンティ社とオーストリアのKSRグループが共同で『ランブレッタ』ブランドを再興し、2018年から量産をスタート。現在ラインナップされているのは『V50 Special』『V125 Special』『V200 Special』の3機種で、今回はもっとも大きい空冷エンジンを積む“200”に乗ります。
ちなみに昨秋のミラノショーでは、新設計の水冷325ccエンジンを搭載するコンセプトモデル「G325 Special」も発表されていますから、今後もラインナップの拡充が期待できます。
筆者がランブレッタを知ったのは、20歳くらいの頃。ファッションに敏感な友人に、映画『さらば青春の光』(1979年、イギリス公開)のビデオを借りたことがキッカケでした。そこで「モッズ」と「ロッカーズ」というカルチャーがあることを知り、たくさんのミラーで装飾されたランブレッタが印象深く記憶に刻まれています。
リーゼントでレザージャケットに革パンなのが「ロッカーズ」ですが、「モッズ」はタイトなスーツに“モッズコート”と呼ばれる軍用パーカ「M-51」を着て、ランブレッタやベスパに乗ります。愛車がスクーターなのは、スーツが汚れるのを嫌ってのことです。
3年前のミラノショーで「ランブレッタ復活」と聞き、まず想い浮かべたのが、さらば青春の光であったりモッズカルチャーでした。お洒落なデザインはKTMやハスクバーナも手がけるKISKA Design(キスカデザイン)によるもの。角形ヘッドライトや長い車体後部は、往年のランブレッタから受け継ぐデザインで、スチール製モノコックボディもまた伝統です。プレス成形のスチール鋼板とパイプフレームを組み合わせた構造とし、車体は50、125、200で共通としています。
足まわりは前後12インチで、フロントフェンダーがボディに固定されている「Fix」、そしてフロントサスにフェンダーが装備される「Flex」の2タイプから選べます。今回乗ったのは「Flex」です。
灯火類はすべてLEDを採用。フロントにABSを備えるなど、クラシックなスタイルの中に先進的な装備も盛り込まれています。
視線の高いゆったりとした乗車姿勢で、フラットな足もとも自由度があります。シートはクッション厚が薄めですが、コシがあって座り心地は良好。770mmのシート高で、身長175cmの筆者が両足を下ろすとカカトが浮きます。シートが高いのではなく、座面が広く幅があるからで、座ったときにはそれがゆとりを感じさせます。
座面が真っ平らなため、信号待ちで停止するときは無意識なうちにお尻を前にズラし、地面に足がしっかり届くことも報告しておきましょう。片足立ちなら写真の通り、カカトまでベッタリです。
空冷4スト単気筒エンジンは排気量168.9㏄。高めの回転で遠心クラッチが繋がり、スムーズに加速していきます。最高出力は約12PSほどですが、非力さは感じません。余裕を持って発進し、速度が上がってからも安定感があります。クルマの流れが速い欧州の道路交通でも、難なく走れるよう設計されているのでしょう。
前後サスペンションはカッチリと硬めで、ナヨナヨと動くのではなく踏ん張りの効く味付け。段差でバタついても収まりがはやく、スチールモノコックボディの車体は平然としています。旋回時にツッコミ気味でコーナーに進入しても足まわりが堪えてくれ、ピレリ製ANGEL SCOOTERも剛性とグリップ力を兼ね備え、頼りになります。
落ち着いたハンドリングと出力特性で、忙しないストップ&ゴーの繰り返しより、あの映画で観たように姿勢を正して、リラックスして悠然と走ると心地よく、堂々とした気分です。
50と125はリヤが片持ち式サスペンションなのに対し、200はツインショックで安定性を高めています。軽二輪枠なので高速道路も走行可能で、首都高など都市高速ではクルージングもこなしてくれるでしょう。
見た目重視かと思いきや、走りの性能も疎かにされていません。オシャレに、ビシバシ走りたい人にうってつけのイタリアンスクーターです。
ヘッドライトをはじめとする灯火器類はLED式。レンズカバーにはLambrettaのロゴが入ります。
上段を指針式の速度計、下段を液晶ディスプレイとしたハイブリッドメーター。伝統とモダンが融合する現代のランブレッタらしいではありませんか。画面の色は好みで変更可能とし、エンジン回転の他、燃料計や電圧、時計も表示。機能性充分です。
スイッチ類もシンプルで、使い勝手は国産バイクと大きく変わりません。ウインカー点滅時は消し忘れがないよう、ライダーに音で知らせてくれるのも趣があります。
ヘッドライトとともにフルカバードされたハンドルまわり。欧州車らしい高級感のある仕上がりが、オーナーの所有欲を満たしてくれそうです。
開閉式のグローブボックスはトランクと言っていいほどに広く、USBソケットも完備。スマートフォンなどの充電が可能です。
220mm径のブレーキディスクは50、125、200で共通ですが、125は前後連動式、200はABS付きにグレードアップされます。
低重心を実現する小径12インチホイールを採用。デザインも凝ったもので、規則正しい細身のスポークがエレガントさを強調しています。
先端が絞り込まれた形状ですが、座面は広め。シート表皮が分けられ、ステッチも手の込んだもの。質感の高いシートに仕上がっています。
シート下の収納スペースは決して広くはありませんが、スモールジェットなら収まるか。必要最低限の容量を確保しています。
空冷エンジンにはVベルト式CVTが組み合わされ、スムーズな加速を実現しました。125と200はリアブレーキもディスク式で、220mmローターが与えられています。※50は機械式ドラムブレーキ。
メッキカバーがマフラーに備わり、質感を高めています。後輪タイヤはフロントより1サイズ太い120/70-12です。
美しいクロームメッキが施されたリアキャリアはオプション設定。スプリングによる跳ね上げ式で、使用時はおろして使います。
全長×全幅×全高:1890×735×1115mm
ホイールベース:1340mm
シート高:770mm
車両重量:134kg
エンジン形式:空冷4ストOHC2バルブ単気筒
総排気量:168.9cc
圧縮比:10.2
最高出力:8.9 kW(12PS)/7500rpm
最大トルク:12.5 Nm(1.3kg-m)/5500rpm
燃料供給方式:フューエルインジェクション
燃料タンク容量:6L
変速機形式:Vベルト無段変速
ブレーキ形式 前・後:226mm径ディスク・220mm径ディスク
タイヤサイズ 前・後:110/70-12・120/70-12