2019年7月にマイナーチェンジを受け、ようやく自社開発の3.0ℓV6ツインターボ(VR30DDTT型)を載せ、フロントフェイスも「日産顔」を手に入れた。
ハイブリッドモデルには、プロパイロット2.0というキラーコンテンツを投入し、コンベのエンジン搭載車は、「スカG」の名前に恥じないハイパワーのV6ターボエンジンを載せた。トップモデルは400ps(実際は405ps)の「400R」を擁する。今回のGT Type Pは同じエンジンながら最高出力を300ps(実際には304ps)に抑えたモデルである。今回は「400R」に対して「300GT」と呼ぶことにする。
最初に結論めいたことを言わせていただくと、「なんで最初からこれで出さなかったんだろう」と思わせるほど、V6ターボエンジン搭載のスカイラインは良い。「クルマの魅力の多くはエンジンだよなぁ」と(たとえ旧世代だと後ろ指さされても)呟いてしまう。
300GTが搭載する3.0ℓV6ツインターボの型式はVR30DDTT。2016年デビューで当初はインフィニティQ50/Q60に搭載していた。生産は福島・いわき工場なのに、日本では乗れないエンジンだったのだ。Vバンク角は60度、ボアピッチも108mmだからVQ系と共通だ。DDTTという型式からもわかるように、DOHC(D)直噴(D)、ツインターボ(TT)である。このエンジン、個人的には現代のV6エンジンのなかでは五指に入るいいエンジンだと思っている。
400Rに乗ったときも、「ああ、いいエンジンだな」と思ったが、その感触は300GTでも変わらない。
400Rが
最高出力:405ps(298kW)/6400rpm
最大トルク:475Nm/1600-5200rpm
なのに対して300GTは
最高出力:304ps(224kW)/6400rpm
最大トルク:400Nm/1600-5200rpm
と101ps/75Nmほど穏やかな出力となっている。とはいえ、304psですよ! アクセルをひとたび踏めば期待以上の加速が味わえるし、そこに至るまでに、いわゆる「ターボラグ」を感じることもない。
インタークーラーが400Rと違って「強化型」でないのと、ターボチャージャーに回転センサーがつかない(からギリギリまでのターボの回転限界までは使わないのだろう)し、もちろん過給圧も違うのだろうが、味わいはさほど変わらない。少なくとも首都高を流したり都内をのんびり走るときには405psと304psでなにかが大きく違うわけではない。
燃費性能も
300GT
WLTCモード燃費:10.0km/ℓ
市街地モード 6.2km/ℓ
郊外モード 10.6km/ℓ
高速道路モード 12.9km/ℓ
400R
WLTCモード燃費:10.0km/ℓ
市街地モード 6.5km/ℓ
郊外モード 10.6km/ℓ
高速道路モード 12.5km/ℓ
とほぼ同じ(つまりモード走行では300も400も必要ないのだ)。
とにかく、言えることは「VR30DDTTは良いエンジン」だということ。
乗り込んでみる。正直言ってインテリアはよく言えば「男の仕事場的」悪くいえばちょっと古い感じ。とはいえ、これまたエンジンが良いとスタイルまで良く見えてくると同じで、インテリアも流行が一周回って、これはこれでヨシと思えた。
気になったのは、ステアリングの重さ。400Rも同じだが304ps(400Rは405ps)もあるクルマとは思えないほどステアリングが軽い(パワーアシストが強い)のだ。同じステアバイワイヤーのDAS(ダイレクト・アダプティブ・ステアリング)を使うハイブリッド(プロパイロット2.0付き)は、さらに軽く、もう小指で回せるほどで、そちらも正直、もう少し手応えがあった方がいいと感じるが、300GTもそれよりマシだが、もう少ししっとり重い方がいいと思う。
ステアリング操作は軽ければ軽いほどいい、と思う層も一定数いる(あるいは多数派)と思うが、スカイラインを求める層は、そう受け止めないのではないだろうか。
横浜の日産グローバル本社から東新宿の編集部まで首都高を使ってのんびり帰ると燃費は10.3km/ℓだった。今回の試乗は高速道路よりも市街地が多く、トータルで244.7km走った。満タン法での燃費は8.9km/ℓ。WLTCモード燃費の89%だから、まぁまぁこんなもんなのだろう。
ちなみに400Rをジャーナリストの瀨在仁志さんが試乗したときの燃費(高速道路中心でそれなりにアクセルを踏んで)は9.9km/ℓ、遠藤正賢さんの試乗のときが9.1km/ℓだから、やはり300GTと400Rでは燃費の差はほとんどないのかもしれない。
300GTで100km/h巡航するとエンジン回転数は1720prm近辺(メーターを目視した)だった。ジヤトコ製ATはライバル(アイシン・エィ・ダブリュやZF)の8速、9速(メルセデス・べンツ)、10速と比べるとスペック的に見劣りがするが、7速でまったく不満は感じない。
強いて不満をあげれば、400Rの方が乗り心地が少しいいかも、ということだ。これは400Rには「インテリジェントダイナミックサスペンション」(IDS)と呼ばれる、減衰力をより幅広い領域かつ100分の1秒単位で制御可能な電磁式比例ソレノイドダンパーが標準装備されているから、なのかもしれない。
300GTで最大の問題は、「400Rがあること」なのだ。400Rがあるのに、300GTを選ぶ理由があるか?
国産でスポーティなFRセダンが欲しいとなると日産スカイラインは、3.0ℓV6ツインターボのおかげで俄然有力候補となる。同じスカイラインには3.5ℓV6ハイブリッドのモデルがあって、そちらは「プロパイロット2.0」で売るクルマだ。個人的にスカイラインを選ぶなら、ハイブリッドではなくV6ターボを選ぶ。プロパイロット2.0は素晴らしい技術だと思うが、V6ターボの魅力にはまったく及ばない。
ちなみに、同じGT Type PでV6ツインターボとハイブリッド(581万6800円)の価格差は117万8100円にもなる。
ここはV6ターボでしょ。
今度は400Rとの比較となる。今回試乗した300GTは、GT Type Pだが、もうひとつ上のグレードのGT Type SPだと490万8200円になる。400Rが562万5400円だから304psと405psの価格差は71万7200円だ。なかなか悩ましい金額だ。
あらために400Rの写真を見ると、タイヤ&ブレーキの違いなどもあって、なんとなく精悍に見える。405psを解き放つ場面など、ほとんどないかもしれないが、「オレのスカGは405psだ!」と心のどこかで思えることの価値は71万7200円になるような気もする。
電動化されていない400psオーバーのFRセダンという乗り物が絶滅危惧種であるのは周知の事実だし、今後生き延びることができたとしても500万円台ではきっと手に入らなくなるだろう。
となれば、(お金に余裕があれば)ここは300GTではなく400Rを選びたいと思う。そう思う人が多いらしく、300GTより400Rの方が売れているという。
ハイパワー、ノンハイブリッドのスポーツセダンにはクラウンRSという選択肢もある。こちらは、2.0ℓ直4DOHCターボ(245ps/350Nm)+8ATを搭載する。
400km試乗したときの燃費は12.2km/ℓと今回の300GTよりずっとよかった。
とはいえ、この試乗の際も、クラウンを選ぶならハイブリッドと結論づけたように、スカイライン300GT/400Rが積む3.0ℓV6ツインターボほどの魅力はクラウンの2.0ℓ直4ターボにはなかった。
スカイラインを買うならV6ツインターボ。クラウンを買うならハイブリッド、というのが私の(極めて個人的な)結論である。
いいエンジンのクルマってやっぱりいいなぁ、なんて言えるのも今だけかもしれない。であるならば、3.0ℓV6ツインターボを積む「スカG」でそれを味わっておくのも悪くない。
日産スカイライン GT Type P(V6 TURBO)
全長×全幅×全高:4810mm×1820mm×1440mm
ホイールベース:2850mm
車重:1730kg
サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rマルチリンク式
エンジン形式:V型6気筒DOHCターボ
エンジン型式:VR30DDTT型
排気量:2997cc
ボア×ストローク:86.0mm×86.0mm
圧縮比:10.,3
最高出力:304ps(224kW)/6400rpm
最大トルク:400Nm/1600-5200rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク容量:80ℓ
WLTCモード燃費:10.0km/ℓ
市街地モード 6.2km/ℓ
郊外モード 10.6km/ℓ
高速道路モード 12.9km/ℓ
車両価格○463万8700円