エンジンの高効率追求に四苦八苦するのは自動車のみならず、鉄道車両においても同様だった。あの手この手で巨大な列車を動かすための古今の手段を振り返ってみよう。


TEXT:三浦祥兒(MIURA Shoji)

 自動車の動力が他の乗り物と異なるのは、エンジンが必ず変速機と対になっていることだ。船舶や航空機や鉄道車両では、ほとんどの場合エンジンは駆動軸と直結である。エンジンの回転速度と駆動軸の速度差を調整するために減速歯車を介されてはいても、自動車のような多段の変速機はまず使われない。なぜなら自動車以外の乗り物は、発進すると一定の速度まで加速した後、停止するまでほぼ速度の調整をしないからだ。それ故発進加速は自動車より緩慢だけれど、それが問題となることはない。それより大事なのは減速比や車輪径、プロペラをエンジンの最大効率に合わせ込むことで、要は燃費が一番大事なのだ。

(PHOTO:TOYOTA)

 内燃機関の効率は最高出力を発揮する回転数で最大になる。レシプロエンジンもガスタービンも同じだが、ガスタービンの場合、最大効率回転から回転を落とすといきなり効率がガタ落ちになり、しかも回復に時間がかかる。レシプロエンジンでは損失の度合いが少ないものの、やはり回転数を変動させるのは効率が良くない。




 ところが、自動車は市街地で走らせる限り、発進と停止を繰り返し、のべつまくなしに回転数が変動する。低速では俊敏な加速が要求される上に、100㎞/hを超える高速走行も大事な要求項目だ。こうした走行条件を満足させるためには大きなエンジンが必要となるが、自動車の車体の大きさには制約があり無闇に大きなエンジンは載せられない。だから小さなエンジンでもトルクを増幅し、幅広い速度域に対応すべく変速機が絶対に必要になるのである。




 けれどもこの変速機がなかなかに難問だ。




 マニュアルでもオートマティックでも中身は歯車の塊で大きく重く、滑らかに速度とトルクを可変させようとすると勢い多段化されてより重くなる。内燃機関は始動と同時に有効なトルクを発生しないから、回っているエンジンと止まっている変速機の回転差を埋めるための発進装置(クラッチやトルクコンバーター)が必要となるし、ギヤの切り替え自体、回転差のある歯車を組み替えるのは厄介事となる。現在ではマニュアル変速機は例外なく二軸のギヤセットで対向する歯車の噛み合わせを変える方式だが、第二次大戦以前のものは、平歯車の歯面を直接切り替える方式であり、ドライバーがキチンとダブルクラッチ(御存知ですか?)を踏んで回転数を合わせないと、思い切りシフトレバーを弾かれて痛い思いをするばかりか、歯車自体を壊すことになりかねなかった。有名なT型フォードではその手間を省くべく、遊星歯車を使ってシフトレバーならぬ、足踏みクラッチでプラネタリーギヤを停止/回転させる方法を採っていたくらい。イージードライブという点では現在のATに繋がる遊星歯車方式ではあったものの、構造が複雑になる上に多段化が難しく、当時の技術では大トルクに対応しづらかったこともあって、面倒な直接噛合式の変速機がしばらく使われることになる。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 よくわかる自動車技術:第22号 エンジンとモーターと変速機@鉄道