「ワークスチューン ワインディング試乗インプレ3本勝負」と題したこの企画、2本目はルノー・スポールとホンダ自らが、それぞれのCセグメント5ドアハッチバック車をベースに開発したホットバージョン、「メガーヌ ルノー・スポール」の6速MT搭載モデル「トロフィーMT」と「シビック タイプR」に、タイトコーナーが連続する芦ノ湖スカイラインなどで試乗した。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu)
PHOTO●平野陽(HIRANO Akio)、ルノー、本田技研工業
共にニュルブルクリンク北コース最速を争うFFホットハッチでありながら、こうも見事に正反対なキャラクターになるものだろうか。
ルノー・メガーヌ ルノー・スポール(以下「メガーヌR.S.」)が世界初公開されたのは、2017年9月のフランクフルトショー。ホンダ・シビックタイプR(以下「シビックR」)は同年3月のジュネーブショーである。
さらに両車のベース車へとさかのぼれば、現行四代目メガーヌの5ドアハッチバックは2015年9月のフランクフルトショー、現行十代目シビックはセダンが2015年9月に北米で、5ドアハッチバックが翌2016年9月のパリサロンで発表されている。
従って、後発モデルが先行するライバルを見て明確に差別化を図ったという典型的な図式は、この2台には当てはまらない。しかしながらこの2台、全幅は1875mm、全高は1435mm、最大トルクは400Nmという所まで、見事なほど一致している。
にも関わらずこの2台は、まず見た目の印象が全く異なる。メガーヌR.S.は一見するとベース車との違いが少なく、ディテールも全体的なプロポーションも、良く言えばオーソドックスで買い物から冠婚葬祭まで困らない、悪く言えばフランス車への期待値の高さをを差し引いてもなお平凡に感じられるスタイルだ。
しかしながら実際には、ベース車に対しフロントが60mm、リヤが45mmワイド化されており、前後バンパーやグリル、ルーフスポイラーなども専用デザイン。ただし素のメガーヌR.S.と「トロフィー」との外観上の違いは、19インチアルミホイールのデザインと「TROPHY」デカールの有無、ブレーキキャリパーの色に留まっている。
かたやシビックRは、ベース車の時点でクーペライクかつ直線基調の攻撃的なスタイルながら、前後にオーバーフェンダーを装着して全幅を75mm拡大。前後左右に装着される大型のスポイラーや、前後バンパーやグリル、ボンネットなどに穿たれた開口部、20インチのアルミホイールで、このクルマがホットハッチであることを極めて分かりやすく主張している。
有り体に言えば、三菱のお株を奪うほどのガンダムルックで、これほどまでに東京・秋葉原の電気街が似合うクルマは他にあるまい。実際に以前、別の取材で秋葉原を訪れた際、道行く外国人観光客が次々とその姿をスマートフォンのカメラに収めていった。裏を返せば、これで葬儀に参列するのは、故人が業界関係者か相当のクルマ好きでなければ躊躇われる類のデザインだろう。
インテリアも、デザインの方向性はエクステリアと基本的には変わらず、メガーヌR.S.トロフィーMTがオーソドックスなのに対し、シビックRは分かりやすくレーシーな装いだ。インパネやドアトリムの質感は両車とも五十歩百歩で、後発のトヨタ・カローラスポーツやマツダ3はもちろん、遥かに先行していた七代目フォルクスワーゲン・ゴルフに対しても明確に見劣りする。
では、肝心の操作系はどうか。まずメガーヌR.S.トロフィーMTは、アクセルペダルとブレーキペダルの間隔が狭く段差も少ないため、ヒール&トーどころかトー&トーさえ容易にこなせる。
またパーキングブレーキが、「EDC」(=デュアルクラッチトランスミッション車)は電動式になるのに対し「MT」はレバー式、いわゆる普通のサイドブレーキとなるため、サーキット走行やジムカーナの際にサイドターンが可能なのも、非常に好ましく感じられた。
だが、6速MTのシフトフィールは、かつての日産マーチ12SRによく似た感触。軽くストロークも短いものの、シフトレバー自体の剛性が不足しているのか、常に華奢な印象がつきまとう。
しかしそれ以上に疑問符が付くのはステアリングホイールだ。まず単純にグリップが太すぎ、ただ保持するだけでも少なからず握力を要求される。そして何より、常に握る左右に滑りやすいナパレザー、送りハンドルをする時以外はまず握らない上下に滑りにくいアルカンタラを巻いているのは完全にあべこべだ。この辺りは率直に言って理解に苦しむ。そもそも、触感の異なる素材を組み合わせず一種類に限定するのが、操作量の多い市販車のステアリングにおいては望ましい。
なお、「トロフィー」にはレカロ製セミバケットシートがフロントに装着されるが、座面が若干短い(筆者実測51cm)うえヒップポイントの落とし込みも少ないため、太股から膝裏にかけてのフィット感が芳しくなく、ヒップに面圧が集中しがち。「ブランドものだから良いものとは限らない」という、ごく当たり前のことを再認識させられた。
対するシビックRは、メガーヌR.S.トロフィーMTほど近くはないが、各ペダルの間隔は適切で、シフトダウン時に自動で回転を合わせる「レブマッチシステム」を用いずともヒール&トーは容易。
シフトフィールはホンダ一流の軽く短く剛性感に溢れるものだが、シフトレバーが短すぎ、球形のアルミ製シフトノブも滑りやすく手の平を添えにくいため、正確に操作しにくいのが玉に瑕だ。
またパーキングブレーキが、メガーヌR.S.トロフィーMTとは対照的に電動式という点には、失望を禁じ得ない。
ステアリングホイールは全面本革巻きで、「しっとり」と言える感触ではないもののフィット感は概ね良好。テイ・エス テック製のフロントセミバケットシートはサイズ・フィット感・ホールド性とも申し分ないもので、ワインディングのみならず町中でも非常に快適に過ごすことができた。
では、肝心の走りはどうかというと、これまた見事に正反対のキャラクターを持っていた。そして両車とも、見た目とは裏腹の性格を隠し持っていた。
メガーヌR.S.トロフィーMTは、着座位置が高めかつ中央寄りで視界も広い。また各スポイラーの張り出しが小さく、タイヤのサイドウォールの厚みもあるため、町中を普通に走らせる分には気を遣わずに済む。
だが、サーキット走行を主眼とした「シャシーカップ」は単純に硬く、路面の凹凸に対し忠実に車体が跳ね、乗員を強めに突き上げてくる。
この「シャシーカップ」もベース車のメガーヌR.S.と同様に、セカンダリーダンパーを備えた「4HCC」(4輪ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)を採用しているため、衝撃の角は丸められている。
しかしながら、ワインディングを主眼としたメガーヌR.S.の「シャシースポール」に対し、スプリングレートをフロント23%/リヤ35%、ダンパーレートを25%高め、フロントスタビライザーの剛性を7%高めた「シャシーカップ」のセッティングは、タイトコーナーの多い芦ノ湖スカイラインはもちろん、速度域の高い箱根ターンパイクや東名高速道路でも、マッチしているとは言えなかった。
その分、ワインディングを相応のペースで走った時は、硬めの足でロールやバウンドが抑えられ安心できるかと言えばその通りだが、今度は別の要素がドライバーに大きな不安をもたらしてくる。それは、後輪を最大2.7°まで操舵可能とした「4コントロール」だ。
60km/h(「マルチセンス」の「レース」モード選択時は100km/h)以下の低速域では前輪とは逆位相に、それ以上では同位相に操舵するこのシステム、特に低速域は三代目ホンダ・プレリュードなど黎明期の4WSを思い出させる強烈な効きで、操舵レスポンスが良いと言えば聞こえはいいが、その代償としてリヤが落ち着かないため違和感と恐怖感が常につきまとう。
またブレーキも、ペダルタッチが柔らかいうえ、踏力に対する制動力の立ち上がりも絶対的な効きも悪く、相当意識して強く深く踏み込まなければ、ワインディングやサーキットでは充分に減速できない。さりとて強く減速すれば、特に下り坂では路面の凹凸に対し車体がふらつき不安定になりやすいため、ここでも不安は拭えなかった。
一方、ターボチャージャーにセラミック製ボールベアリングを用いたM5P型1.8L直4ターボエンジンは、メガーヌR.S.より21ps高い300ps、10Nm高い400Nmというハイチューン仕様ながら、「マルチセンス」と呼ぶドライビングモードを「コンフォート」または「ニュートラル」に設定した際は、パワー・トルクとも立ち上がりはリニアで扱いやすい。またJTEKT製トルセンLSDの助けもあり、タイトコーナーの立ち上がりでホイールスピンに悩まされることは少なかった。
ただし「マルチセンス」を「スポーツ」または「レース」にすると、過給圧が急激に立ち上がりホイールスピンに悩まされることも多くなる。またトロフィー専用「スポーツエキゾースト」内部のバルブが開放され野太いサウンドになるのに加え、アクセルオフのたびにバックファイヤー音がけたたましく鳴り響くのは、筆者には演出過剰に感じられた。
そんなメガーヌR.S.トロフィーMTに対し、シビックRの走りは前述の通り何から何まで正反対のフィーリングだ。
それは、運転席に座った瞬間から感じ取れる。これはベース車の「シビックハッチバック」も同様だが、着座位置が低く、かつ車体の外側に寄っている。そのため、クルマの挙動に伴う視線のブレが少ないのは良いのだが、実際の寸法以上に車幅が広く感じられる。そのうえ各スポイラーの張り出しが大きく、新車装着タイヤは245/30ZR20でリムガードも備わっていないため、左折や坂道、大きな段差、駐車の際などは少なからず気を遣う。
しかしながら乗り心地は、ZF製「アダプティブ・ダンパー・システム」の恩恵もあり、ドライビングモードがデフォルトの「スポーツ」だけではなく、最もハードな「+R」の時でさえも決して苦痛ではなく、むしろ快適とさえ言っていい。それでいて旋回時のロールは、最もソフトな「コンフォート」でも極めて少ない。かつシビックRには4WSがなく、エアロパーツも効果に優れ、直進安定性向上に明確に寄与している。サスペンションのセッティング自体も弱アンダーステア傾向だ。
またブレーキも剛性感溢れるタッチで、初期制動力も高いながら唐突ではなく、踏力に対する制動Gの立ち上がりがもリニア。そのため、特にワインディングでは常に安心して走りを楽しむことができた。
先代より引き継がれたK20C型2.0L直4ターボは、ホンダのエンジンらしく高回転高馬力型な性格で、高回転域では澄んだハイトーンを聞かせてくれるが、極低回転域のトルクは細い。排気量が約200cc大きく、車重も60kg軽いながら、街乗りやタイトコーナーの立ち上がりでは、メガーヌR.S.トロフィーMTよりも加速が鈍く感じられた。
その一方でターボラグは大きく、過給圧が急激に立ち上がる傾向にあるため、その際にホイールスピンを誘発しやすい。シビックRにもヘリカルLSDは備わっているが、その急激なトルク変動に抗えるほど効きは強くなく、コーナー立ち上がりの際はもちろん直進加速でも繊細なアクセルワークを要求された。
このように、メガーヌR.S.トロフィーMTは、パッケージとエンジンは比較的大人しく日常でも気軽に付き合えるようでいて、乗り心地は同乗者に眉をひそめられるほどハードで、ハンドリングのクセも強い。そしてシビックRは、見た目こそモビルスーツのようで、エンジンもじゃじゃ馬だが、乗り心地は優しくハンドリングも素直だ。
繰り返しになるが、同じCセグメントのFFホットハッチながら、この2台は見事なまでに性格を異にしている。ここまで性格が違うのならば、最早良し悪しではなく好みで選んで差し支えないのでは…というのが筆者の率直な印象だ。
しかし、それでも敢えて優劣を付けるのならば、その子供くさい内外装に大きな抵抗感を覚えるものの、あらゆる状況で全幅の信頼を置いて走りを楽しめ、他人を乗せても乗り心地で非難を浴びる心配もない、シビックRに軍配を上げる。
だが両車とも、すでに2020年モデルが発表されており、遅くとも年内に日本でも発売される可能性が高い。どれほどの進化を遂げているか、大いに期待して待ちたい。
■ルノー・メガーヌ ルノー・スポール トロフィーMT
全長×全幅×全高:4410×1875×1435mm
ホイールベース:2670mm
車両重量:1450kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャー
総排気量:1798cc
最高出力:221kW(300ps)/6000rpm
最大トルク:400Nm/3200rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:245/35R19
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:13.4km/L
市街地モード燃費:10.0km/L
郊外モード燃費:14.0km/L
高速道路モード燃費:15.3km/L
車両価格:489万円
■ホンダ・シビック タイプR
全長×全幅×全高:4560×1875×1435mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1390kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボチャージャー
総排気量:1995cc
最高出力:235kW(320ps)/6500rpm
最大トルク:400Nm/2500-4500rpm
トランスミッション:6速MT
サスペンション形式 前/後:マクファーソンストラット/マルチリンク
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:245/30ZR20 90Y
乗車定員:4名
JC08モード燃費:12.8km/L
車両価格:458万3700円