TEXT&PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
スープラに乗った。SZ-Rだ。スープラにはRZ、SZ-R、SZ の3つのグレードがある。エンジンは2種類で、RZは3.0ℓ直6ターボ(250kW/500Nm)を搭載。SZ-RとSZは2.0ℓ直4ターボを搭載する。ただし出力/トルクは異なり、SZ-Rが搭載するユニットは258ps(190kW)/400Nmを発生。SZは197ps(145kW)/320Nmとなる。
すべてのエンジンがBMW製で、2.0ℓ直4ターボはB48型だ。BMWでは1、2、3、5シリーズ、X1にX2、それにBMWグループに属するMINIが搭載する主力ユニットだ。2.0ℓ直4版、3.0ℓ直6版(B58型)ともに、ZF製の8速AT(8HP)と組み合わせる。言い換えれば、スープラのパワートレーン(エンジン+トランスミッション)はBMWの縦置き系と同一だ。
メータークラスターの左下にある「START STOP ENGINE」と書いてあるシルバーのボタン(文字はレッド)を押すと、ヴォォォンと野太い排気サウンドを響かせてエンジンは目覚める。音の作り込みに力を入れたのは明らかだ。アイドリング〜低速走行時でも野太い排気サウンドが耳に届く。ある回転数や速度域でこもったり、ビビったりしてドライバーを不快にさせることはない。この排気サウンドは、スープラの価値を高めるのにひと役買っている。
BMWと同じで、ZFの8HPは隙あれば上の段に変速し、エンジンを常に低回転に保っておこうとする。都内の一般道を巡航しているときのエンジン回転数は1000rpm+αだ。60km/h走行時のエンジン回転数は1200rpmである(目測値。以下同)。低い排気サウンドは後ろから耳に届くが、回転数が低いせいもあってボリュームはたいしたことなく、騒々は感じない。
快適性を重視したNORMALモード時の変速制御でも、力の出方にもどかしさを感じることはない。大排気量NAエンジンを低回転で転がしている感覚である。しかし、時と場合によってはもっと刺激が欲しくなることもあるだろう。そんなときは、シフトセレクターの手前にあるSPORTと書かれたボタンを押せばいい。SPROTモードに切り替わった途端、センターのディスプレイは「スポーツ表示」に切り替わり、出力とトルクを数字とグラフィックで表示するようになる(注視する余裕はないが)。
SPORTに切り替わった途端、排気サウンドはワイルドになる。オフスロットル時にはアフターファイヤー風の音を響かせることもある。ちょっと、やさぐれた荒っぽさを感じる。水平対向4気筒ターボエンジンを搭載するポルシェ718系も、1.8ℓ直4ターボを搭載するルノー・メガーヌR.S.トロフィーも、SPORTモードに切り換えた途端、やさぐれ系排気サウンドに一変する点で共通している。「SPORTモード=やさぐれ」は、欧州系スポーツモデルに共通した演出なのだろうか。
スープラSZ-Rの場合、SPORTモードになったときの豹変ぶりは激しく、はじめは「えっ、そんなに変わる?」と、ちょっとばかりおののいた。オルガン式アクセルペダルの踏み込みに対するやさぐれ系排気サウンドの迫力と、それに呼応した鋭い加速が、まるで別のクルマを操っているような感覚を乗り手に与える。さっきまであんなに大人しかったのに……と。
NORMALモード時の100km/h走行時のエンジン回転数は8速で1600rpm近辺だが、SPORTモードに入れると6速2400rpmになる。首都高速でよく使う60km/hの場合、7速1200rpmが4速2500rpmになる。2500rpm近辺にエンジン回転数を保っておくのは、この回転数で巡航するという意味ではなく、ドライバーからの要求があった場合に、瞬時に3000rpm以上にエンジン回転数を高めるための準備だ。
その証拠に、ちょっと強めにアクセルペダルを踏み込むと、待ってましたとばかりに即座にダウンシフトして3000rpm以上にエンジン回転を高め、「どうです旦那、気持ちいいでしょう」と訴えかけてくる。確かに、気持ちいい。もっと気持ちいいのは減速時で、速度の落差が大きければ大きいほど、快感は増す。減速から加速への反転時に俊敏なレスポンスを提供するため、回転合わせのブリッピングを行ないながらダウンシフトを繰り返し、高い回転数を保っておこうとするのだ。
エンジン回転数とギヤ段の選択は、完全にクルマ任せでいい。それでとことん気持ち良く、スポーツドライビングを楽しむことができる。ステアリングの裏に変速パドルが付いているが、SPORTモードで使うよりもむしろ、NORMALモードでエンジンブレーキを強めに掛けたいときに使うことのほうが多いような気がする。
ペースを上げたときに接地感もいい。速度域や路面のアンジュレーションとの相性もありそうだが、クルマと路面の性格がぴったり合ったシチュエーションでは、磁石でお互いが引き合うように、ピタッと路面に追従する。ステアリングを切り込んだときの反応はいいが、クイックに過ぎることはなく、落ち着きはある。排気サウンドはやさぐれている感じだが、それは音だけで、曲がることに関しては頼もしさが支配的だ。
見た目はマッチョでわんぱくっぽいし、SPORTモードにしたときの豹変ぶりといったらないが、大人が一定のマージンを取りながら悪ふざけをしているようで、走る・曲がる・止まるに関し、常に余裕がある印象。つまり、懐が深い。だからスープラとは、落ち着いて付き合うことができる。
トヨタ・スープラSZ-R
全長×全幅×全高:4380mm×1865mm×1295mm
ホイールベース:2470mm
車重:1450kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
最小回転半径:5.2m
エンジン形式:直列4気筒DOHC
エンジン型式:B48型
排気量:1998cc
ボア×ストローク:82.0mm×94.6mm
圧縮比:11.0
最高出力:258ps(190kW)/5000rpm
最大トルク:400Nm/1550-4400rpm
過給機:ターボチャージャー
燃料供給:筒内燃料直接噴射(DI)
使用燃料:無鉛プレミアム
燃料タンク容量:52ℓ
WLTCモード燃費:12.7km/ℓ
市街地モード 13.7km/ℓ
郊外モード 13.1km/ℓ
高速道路モード 14.7km/ℓ
車両価格○600万9259円