編集部のスタッフはいつも私に無茶を言う。1100ccのV4で200馬力オーバーのアプリリアRSV4ファクトリーはサーキットでこそ本領を発揮するバイクであるが、それを市街地をじっくり試乗してきて欲しいと。バイクを所有したからといってサーキットばかりを走るわけでもないだろうし、普段の使い勝手は確かに重要である。さて、どうしたものか。




※2019年モデルの試乗記となります。




REPORT●後藤 武(GOTO Takeshi)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

アプリリアRSV4 1100ファクトリー……2,915,000円(消費税10%込)

 最近のスーパースポーツが凄まじいばかりの進化を遂げているのはご存知の通り。中でもアプリリアRSV4ファクトリーのポテンシャルは素晴らしい。エンジンは1100ccのV4で200馬力オーバーし、先進の電子制御システムでライダーをサポート。デザインルはレースで活躍ファクトリーマシンを彷彿させるものだし、キャスター角、スイングアームピボット位置、エンジン搭載位置などの調整機構を持っている。レーシングマシンそのままではないかと思うような装備だ。




 今回、極めつけに尖ったこのマシンを試乗する場所はストリート。しかも市街地中心というのが編集部からのオーダーだった。

低中速からトルクフルなV4エンジン

 車体に跨った瞬間感じるのはコンパクトで軽いこと。車体そのものの軽さに加え、V4のスリムさがあるから、直4エンジンのマシンより一回り車体が小さい感じがする。


エンジンのフィーリングはかなり荒々しい。直4のようなスムーズさやジェントルな感じではなく、湧き上がるような力強さとV4の鼓動感がある。




 ストリートではこのエンジンがとても使いやすい。低回転からトルクがあって、交差点の立ち上がりではスロットルを開けた時、リアタイヤにグッと力がかかるのが分かる。これに比べると直4は、同じようなトルクがあったとしても無機質に加速だけしようとする感じ。シッカリとトラクションがかかるので低速コーナーも気持ちよく走ることができる。幹線道路や高速道路をクルージングしている時は、この荒々しさも消えて滑らか。




 スロットルを全開にすると6000rpmぐらいからパワーが盛り上がってきて猛烈な加速が始まる。ウイリーコントロールは、非常に緻密な制御をしていて低いギアで加速している時も違和感がまったくない。フロントタイヤが路面すれすれをキープしたまま突っ走っていく。恐ろしくなるほどの加速感。ただ、ストリートではこのパワーを感じ始めたあたりでスロットルを戻さなければならないのは残念なところ。


高回転まで回した時、V4の排気音は非常にエキサイティングでトルク感もある。低回転では若干ショックがあったシフターもスムーズに作動するようにり、気持ち良くシフトアップができる。




 直4はスムーズで乗りやすいし、ストリートを走るのに十分な低速トルクもあるのだけれど、街中で使いきれていない感がどうしてもあって、個人的には、それがストレスになる。 ところがRSV4は低中速トルクあるし、中速からの盛り上がり感があるから、市街地を走っていてもずいぶん楽しむことが出来た。

高性能な足まわりがストリートで生きる

 ハイスピードでの走りを考えたスーパースポーツは、ストリートのように速度が出ていない状態は苦手なマシンもあるけれど、RSV4はハンドルに力を入れたりせず、荷重移動だけしてやれば低速でも綺麗に曲がっていく。U ターンも比較的やりやすい。車体が軽いことに加え、素晴らしい動きのサスペンションのおかげだろう。街中を走っていても硬さと感じるようなことはない。




 ブレーキは、タッチ制動力共に素晴らしい。効きは強力だが、コントロールしやすい。何度か激しいブレーキングにもトライしてみたが、ABSの作動もスムーズかつ上質。 IMUによって制御されているため、どんなブレーキングでも姿勢が安定している。


 最初はどうなるかと思った試乗だったが、予想していたより、ずいぶん楽しく走ることが出来た。色々なスーパースポーツで街を走ったことがあるけれど、町中を楽しく走れたという点ではRSV4が一番だった。

ストリートで気になるところは?

 ストリートで使って気になるところもある。まずはポジション。シートが高く、足つきは良くない。前傾もきつめでステップ位置が高く、膝の曲がりもきつめ。人間が高い位置に座ってバイクを積極的にコントロールする設定だから、スーパースポーツに慣れた人でないとストリートでの長時間走行は辛くなってしまう。


 もう一つ気になったのはクラッチ。最近のバイクとしては珍しく重いので、どうしてもシフターやブリッパーを使いたくなるが、ゆっくり走っていることは考えていない設定なので、どうしてもクラッチを多用することになる。そうすると左手が痛くなりそう。


 多くの機能があるマネージメントシステムは、表示が難解で、最初はマニュアルを見ながらの操作が必要。ただ、このバイクの場合は、車体などの調整機構も含め、使いこなすにはそれなりの時間がかかる。オーナーになって色々なことを勉強しながらバイクと付き合っていけば良いのだと思う。

足つきチェック



ディテール解説

フロントフォークはオーリンズのNIX。キャリパーはブレンボStylemaを装着。ホイールは軽量なアルミ鍛造品。ワークスチームが使用しているものと同じブレーキキャリパー・カーボン・エアダクトがオプション設定されている。ボッシュと開発したマルチマップコーナーリングABSはサーキット走行にも対応。レバーの圧力、ロール/ピッチ/ヨー等様々な要素を分析して常に対的なブレーキングを可能にする。

65度V4エンジンは1078cc。最大出力は217hp/13200rpm。最高出力を発揮する回転は高いが中速域から太いトルクを発生するためストリートでも乗りやすい。パワーモードはスポーツ、トラック、レースに切り替えが可能で出力特性だけでなくエンジンブレーキの効き方も変化する。

サイレンサーはアクラボビッチ。排気音自体は消音されているが、音質はかなり勇ましい。V4独特の排気音も魅力的。カーボンのプロテクターにもアクラボビッチのロゴが入る。

鍛造アルミ製のリアホイールは6.0×17。リアブレーキはφ220mmディスクとブレンボの対向ピストンキャリパーの組み合わせ。ピストン径は32mm。

アルミ成形材を組み合わせたスイングアームは従来モデルに比べて捻じれ剛性を向上。コーナーからの立ち上がりでの安定性を高めている。

リアショックはオーリンズのTTS。フルアジャスタブルで別体タンクを備え、連続したスポーツライディングでも安定して性能を保つ。

超高速域での空力を考えたテールカウルと保安部品。タンデムをする場合はテールカウルの上部をシートに交換する。

ハンドルバーは垂れ角が少なく、荷重などの操作がやりやすい。

先進の電子デバイスを装備。左のスイッチボックスで様々なデバイスの切り替えを行う。スーパースポーツとしては珍しくオートクルーズも装備。数値を切り替えるタイプの為、設定も簡単。ピットリミッターはサーキットだけでなく、ストリートでは制限速度などに設定することもできる。

右のスイッチボックスはセルとキルスイッチのみ。スロットルはフルライドバイワイヤーでコントロールされる。

フロントフォークは左で圧側、右で伸側の減衰調整を行うことができる。

個性的なデザインのフロントカウル。ヘッドライトは3灯式。小型のウイングは高速域でのダウンフォースを発生させ、高速での安定性を高め、ブレーキの効力を増大。ウイリーしようとする力を押さえつける効果もある。

シートは体重移動しやすい形状。スポンジは極端に硬いわけではないのでストリートでも簡単にお尻が痛くなるようなことはない。

テールカウルはキーで簡単に取り外しができるが、内部に物を収納するスペースはない。タンデム用のシートに交換することと整備用だ。

メーターには様々な情報が表示される。コントロールはすべて左スイッチボックス。様々な調整の仕方を覚えるのが、このマシンと付き合う第一歩。トラクションコントロールはスロットルを戻すことなく8段階、ウイリーコントロール3段階、ローンチコントロール3段階、ピットリミッター、クルーズコントロール、コーナーリングABSの感度3段階、3つのパワーモードの等の調整が可能

調整機構が充実している点ではライバルをリード。スイングアームピボット位置とエンジン搭載位置を調整することが可能。

クイックシフターを装備。シフトダウンもブリッパーがある為クラッチ操作無しでシフトチェンジが可能。加速中でもシフトダウン可能なのはこのマシンだけ。激しい戦いで競り合っている時に頼りになる装備。チェンジペダルの位置も調整が可能だ。

フレームのカラーを入れ替えることでキャスター角も変更することができる。調整幅は±3 mm。ハンドリングの軽快感、安定性を好み合わせて設定することができる。

主要諸元

エンジン:4ストローク 水冷65°V型4気筒 DOHC 4バルブ


総排気量:1,077cc


ボア×ストローク:81 mm×52.3 mm


圧縮比:13.6:1


最高出力:217HP(159.6kw) / 13,200rpm


最大トルク:122Nm / 11,000rpm 


燃料供給方式:電子制御燃料噴射システム、マレリ製 48 mm スロットルボディ、 ライド・バイ・ワイヤ エンジンマネージメントシステム


点火方式:電子制御イグニッションシステム


潤滑方式:ウェットサンプ 


始動方式:セルフ式


トランスミッション:6速カセット式 アプリリア・クイック・シフト(AQS)付フルクロスレシオ


 1速: 2.600


 2速: 2.063


 3速: 1.700


 4速: 1.476


 5速: 1.307


 6速: 1.222


一次減速比:1.659


最終減速比:41/16 (2.562)


クラッチ:機械式スリッパ―システム付湿式多板クラッチ


フレーム:アルミツインスーパーフレーム/Öhlins製ステアリングダンパー


サスペンション(F):Öhlins製NIXテレスコピック倒立フォーク Φ43 mm ホイールトラベル125㎜


サスペンション(R):Öhlins製TTXモノショックビギーバックタイプ ホイールトラベル120㎜


ブレーキ(F):330 mm 軽量ステンレス製フローティングデュアルディスク、ブレンボ製Stylemaモノブロック ラジアルマウント 30 mm 4 ピストンキャリパー


ブレーキ(R):220 mm ディスク ブレンボ製 32 mm 2 ピストン フローティングキャリパー


ABS/ボッシュ製9.1MPコーナリングABS 3マップ


ホイール(F):3.5J x 17 軽量鍛造アルミホイール


ホイール(R):6.0J x 17 軽量鍛造アルミホイール


タイヤ(F):120/70-ZR17


タイヤ(R):200/55 ZR 17


全長:2,052 mm


ホイールベース:1,439 mm


シート高:851 mm


車両重量:199Kg(燃料90%搭載時)


燃料タンク:18.5 L


ボディーカラー:RACER

情報提供元: MotorFan
記事名:「 最上級スーパースポーツのサーキット以外での使い勝手 ○×?|アプリリアRSV4 1100ファクトリー試乗レポート