最新のキャデラックデザインをまとって登場したラグジュアリーSUV。そのエレガントなデザインもさることながら、クラス最大級のスペースを誇る3列シートが魅力の1台だ。




REPORT◉吉田 拓生(YOSHIDA Takuo)


PHOTO◉神村 聖(KAMIMURA Satoshi)




※本記事は『GENROQ』2020年4月号の記事を再編集・再構成したものです。

 キャデラックの現行ラインナップは、ちゃんと時流に乗っており、クロスオーバーSUV優勢になっている。その最新モデルが日本市場に今年導入されたばかりのXT6だ。ミドルサイズ、2列シートのXT5とフラッグシップであるエスカレードのちょうど中間に位置する3列シートモデルである。




 XT6の第一印象は「端正で引き締まって見える」というもの。キャデラックの広報車はなぜか黒系が多く「またか」感が拭えない。しかしこれがカタログ内にも登場するお洒落なこげ茶色(ダークモカメタリック)だったら「トランプ感」も控えめになり相当にカッコイイと思う。




 さらにキャデラックといえばいつもエスカレードの巨体に圧倒されているので、同じ3列シートを持ったクロスオーバーながらXT6はずいぶんとコンパクトに見える。実際のサイズ感はBMW X5より微かに大きく、X7よりはひと回り小さい。最もサイズ感が近いのはボルボXC90なので、日本の路上では十分に大きいわけだが。




 グレードは装備が充実したプラチナムのみで、エンジンは3.6ℓV6と新登場の9速ATが組み合わされる。だがこのエンジンは、今どきターボでもディーゼルでもないという点が珍しい。しかも横置きなので、パワートレインはFFベースの4駆ということになる。




 最初にテールゲートを開けて中を覗き込んでみた。メイプルシュガーと呼ばれる明るめのブラウン革の内装で、3列シートが端正に並んでいる。2列目はキャプテンシートになっているので、3列目へのアクセスも良好。しかも2、3列目のシートバックは荷室内のスイッチひとつで倒すことができる。




 リヤドアから室内に入ってみると、2列目はもちろん、3列目もキャデラックの名に恥じない十分な広さがある。日本で3列シートのプレミアムモデルというとアルファードに代表される大型ミニバンが思い浮かぶ。だが最近の欧米の3列シートSUVの実用性は確実に向上しているので、そろそろ本当の高級感やドライバビリティといったものまで考慮して「黒いボディと安っぽいメッキで飾ったミニバン」信仰が薄れてもいいような気がする。

完全通信型のDR(自律航法)マップマッチング対応クラウドストリーミングナビを採用する。

4つのドライブモードを切り替え可能。

 さていよいよ運転席に座ってみる。シートの形状やインパネのデザインは最近のキャデラックらしく端正で、少しも大味な感じがしない。少し前のキャデラックの泣き所だったナビゲーションに関しても、ゼンリンと共同開発したクラウドストリーミングナビを直感的に呼び出せる。




 街中を走りはじめた時、アラート類がずいぶん敏感だと感じた。近年のプレミアムカーは、クルマ全周にわたってセンサーが見張っているのは当たり前で、様々なアラートが危険を知らせてくれる。キャデラックの場合は運転席の座面に左右に分かれて内蔵されたバイブレーターが振動し、こと細かに危険を知らせてくれる。歩行者対応のエマージェンシーブレーキの介入も早めだが、その分安心感は非常に高い。




 車重は2.1t超え、エンジンは自然吸気だがこの3.6ℓV6は低回転から少しも弱みを見せない。最高出力は6700rpm、最大トルクは5000rpmの高みで発生するが、そんなにブン回さなくても十分な動力性能をもたらしてくれる。




 センターコンソールのモードセレクトによってツーリング(2駆)とAWD、スポーツ、オフロードの4つの走行モードが選択できるのも今風だ。エンジン横置きなので2駆の場合はFFになるが、それによるネガもまったく感じられなかった。




 だが動力性能以上に心打たれたのは乗り心地だった。これはもう、非エアサスのクロスオーバーSUVの中でもトップレベルにあると言っていい。タイヤのサイドウォールと、サスペンションやブッシュ類が、一定のマナーをもって変形し、しっとりとした姿勢変化を促し、室内に不快な振動を与えない。これはメーカーの開発能力はもちろんだが、北米を走るクルマに求められる想定スピードが、日本のペースに近いためということもあるのだと思う。その点は、いまだに130㎞/hあたりから俄然マナーが良くなるドイツ車との大きな違いといえる。




 ひと世代前のキャデラックはステアリングリムの硬さや、スイッチ類の感触、細部の仕上げ等々に北米的な粗さやクセがあったが、XT6ではそれらがかなり払拭され、キャデラックの良い面をすっきりと享受できるようになってきている。




 870万円という車両価格にほぼすべての装備が含まれているというのも、ヨーロッパ車に対してわかりやすく正直だ。最新世代のキャデラックは真面目にチェックしてみる価値があると思う。

フロントシートはレザー表皮に空いた微細な孔から空気を吹き出すパーフォレイテッドベンチレーションシートを採用している。


〈SPECIFICATIONS〉キャデラックXT6 プラチナム


■ボディサイズ:全長5060×全幅1960×全高1775㎜ 


ホイールベース:2860㎜ 


■車両重量:2110㎏ 


■エンジン:V型6気筒DOHC 


総排気量:3649㏄ 


最高出力:231kW(314㎰)/6700rpm 


最大トルク:368Nm(37.5㎏m)/5000rpm 


■トランスミッション:9速AT 


■駆動方式:AWD 


■サスペンション形式:Ⓕマクファーソンストラット Ⓡマルチリンク 


■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク 


■タイヤサイズ:Ⓕ&Ⓡ235/55R20 


■車両本体価格:870万円
情報提供元: MotorFan
記事名:「 Cadillac XT6試乗記