先日、ホンダから発表されたADV150がバイク、スクーターに乗る人達の間で話題になっているようだ。手頃なサイズと価格でありながら、趣味性のあるスクーターとして多くの人が注目しているのである。


モーターファンBIKESでは発表直後にファーストインプレッションを展開しているが、今回はこのADV150を街に引っ張り出して、東京の幹線道路、裏道、高速道路などを走ってみて、より一般の皆さんに近い立場でのインプレッションを行うことにした。


テスターはライターの後藤。普段は中大型排気量のマシンを足にしていて、スクーターにはあまり乗ることがない。つまり、どちらかといえばアンチスクーター派。そんなテスターのインプレとは?


REPORT●後藤 武(GOTO Takeshi)


PHOTO●山田俊輔(YAMADA Shunsuke)

ホンダ・ADV150.......451,000円

走り出した瞬間に感じる車体の素晴らしさ

 コンパクトな車体に座ってスロットルを空けた瞬間、予想よりも数段力強い加速に驚ろかされた。PCXをトルクアップさせたエンジンは下からトルクがある。都心部の幹線道路での加速性能はまったく不満がない。スムーズに吹け上がるエンジンのフィーリングが楽しくて、ついスロットルを開けてしまう。小さな車体だから舐めていたけれど、これだけ走れば十分すぎるくらいのパワーだ。


 交差点のスタートで他の交通をリード。エンジンの吹け上がり方と加速を堪能して法定速度に到達する頃には、スロットルを戻してクルージング。エンジンの回り方が気持ち良いだけでなく、都内でもちょうど使い切れるパワーだから乗っていてストレスが溜まらない。


 アイドリングストップの出来も秀逸。スロットルを開けた瞬間、エンジンが始動してスムーズに加速していく。信号からのスタートで違和感をほとんど感じないのは素晴らしい。ただ、とても短い時間でエンジンが停止するので、都内を走っていると頻繁にエンジンが止まる。エンジンが止まる時間を設定できたりしたらなあ、と欲張りな気持ちが出てくる。


 少し走ってみて感じたのは車体のしっかりした感じと足まわりのしなやかさ。前後サスのストロークが長く、気持ち良いくらいスムーズに動く。このサスペンションと車体のおかげもあって直進での安定感も高く、安心して走ることができる。


 ブレーキの性能も文句なし。効きもタッチも素晴らしい。試しにフルブレーキングをしてみたがフォークのよじれやフレームのしなりなども全く感じない。急減速からのUターンなんていう攻めた走り方をしても、この車体、サス、ブレーキのおかげでまったく不安なし。コーナリングで攻めてもタイヤのグリップしている感じが伝わってくる。


 スクーターが苦手というライダーは(つまりテスターのこと)、クイックなハンドリングに不安感を覚えたり、タンクがなくてニーグリップできないことなどに馴染めないことが多い。けれどADV150のハンドリングは、テスターのようにスクーターが苦手なライダーも納得してしまうほど。ニーグリップできないという点はあるが、それでも満足できてしまうレベル。恐るべき完成度の高さである。


 インプレだけ取ったら、さっさと試乗を終わらせようと思っていたのに、つい足を伸ばしてメシを食いに出かけることにしてしまった。スクーター嫌いが「もっと乗っていたい」と思うようなスクーターだったのである。


 ちなみのこの日はタンデムでも走ってみたが、余裕のトルクのおかげで加速性能の低下も少ない。重心が後ろになったことによる直進性の低下やハンドリングの悪化もほとんど感じなかった。

短距離の移動であれば高速道路も問題なし

 次に走ってみたのは平日昼間の首都高速。渋滞はないが、交通量は多め。こういう状況であればADV150の動力性能でなんら不足なし。車の流れを難なくリードすることができる。速度が出た状態で路面の継ぎ目を越えても車体も安定している。


 そのまま東名高速に入ってみたが、さすがに大きな高速道路になると若干苦しくなってくる。100 km/hの巡航は可能だが「エンジン頑張ってんなあ」という感じ。エンジン音は静かだしバランサーのおかげで振動もほとんどないから巡航自体が大変ということはない。ただ、パワーに余裕がないので追い越しとか上り坂になると厳しくなってしまう。


 個人的な印象としては、高速でインター数個というレベルの移動ならまったく問題ないが、一日かけて長距離を移動するような使い方をすると疲れてしまいそう。まあ、このあたりはオーナーとなる人の使い方と考え方次第。長距離の移動が多かったら、そもそもADV150には行き着かないだろうから、大してネガティブなことにはならないだろう。


 という感じで色々なところを走ってみたけれど、完成度の高さと走りは期待以上。普段ビッグバイクに乗っているテスターでもまったくかったるさがないというのは素晴らしい。 経済性も考えたら理想的なストリートコミューターだと言って良いと思う。

ディテール解説

フロントブレーキはシングルのウエーブディスクに片押し2ポットのキャリパー。フロントフォークは正立。アクスルシャフト前についたリーディングアクスル。ストローク量を多く取ることができて直進安定性に優れる。ストローク量はクラス最長の130mm。

エンジンはPCX150と同じeSPをベースとして中速域のトルクを太らせている。パワーと経済性を両立し、静かで振動も少ない。ストリートコミューターに必要な要素を高次元でバランスさせている。

別体タンク付きのSHOWAを使用したツインショック。十分なストロークを確保していてストリートでの乗り心地は良好。コーナーでも安定した走りを実現している。ストロークは120mm。三段スプリングによってプログレッシブな特性を実現。

リアブレーキはウエーブディスクに片押しシングルポットキャリパーを採用。制動力は十分。おだやかな効き方をする為に扱いやすい。

タンデムライダーの着座位置に合わせて取り付けられた折りたたみ式のタンデムステップ。 

大型のテールランプはX型に発光。後続車からの視認性が良く、ADV150の存在感を主張する。エマージェンシーブレーキを採用しており急ブレーキ時にはウインカーを高速で点灯させて後続車に注意をうながす。

左フロントカウル内側に設けられたフロントインナーポケットは容量2リットル。スマホなどが充電できる電源ソケット付き。日常使いでありがたい装備だ。

アドベンチャーイメージを漂わせるカウル。スクリーンはハイ、ローの二段階に調整することができる。

燃料タンクは足元にあり、キャップの開閉はスイッチで行う。タンク容量は8リッター。300km以上の航続距離を誇る。

スマートキーを採用。キーを押すとウインカーが点灯して自車の位置を知らせるアンサーバック機能付き。

ハンドルはパイプのアップタイプ。幅が広いためオフロード走行などでもマシンの押さえが効く。

多機能メーターにはスピード、タコ、オド、ツイントリップ、燃料計、時計に加え瞬間燃費計やオイル交換インジケーターを装備している。

右スイッチボックスは上からアイドリングストップ、ハザード、セルの順番。

左スイッチボックスは上からライトのハイ・ロー切り替え、ウインカー、ホーンの順番で配置されている。

シートは大きくて座り心地も良い。タンデムシートはそれほど大きくないが着座位置が高いために前方の視界は良好。

シートを開けると荷物収納スペースが出でくる。容量は27リットル。フルフェイスのヘルメットなら一つがスッポリと入る大きさだ。

主要諸元

車名・型式:ホンダ・2BK-KF38


全長(mm):1,960


全幅(mm):760


全高(mm):1,150


軸距(mm):1,325


最低地上高(mm):165


シート高(mm):795


車両重量(kg):134


乗車定員(人): 2


燃料消費率(km/L):


 54.5(60km/h)〈2名乗車時〉


 44.1(WMTCモード値)〈1名乗車時〉


最小回転半径(m):1.9


エンジン型式 :KF38E


エンジン種類 :水冷4ストロークOHC単気筒


総排気量(cm3):149


内径×行程(mm):57.3×57.9


圧縮比:10.6


最高出力(kW[PS]/rpm):11[15]/8,500


最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm):14[1.4]/6,500


始動方式:セルフ式


燃料供給装置形式:電子式〈電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)〉


点火装置形式:フルトランジスタ式バッテリー点火


燃料タンク容量(L):8.0


変速機形式:無段変速式(Vマチック)


タイヤサイズ(前 /後):


 110/80-14M/C 53P


 130/70-13M/C 57P


ブレーキ形式 (前/後): 油圧式ディスク/油圧式ディスク


懸架方式 (前/後):テレスコピック式/ユニットスイング式


フレーム形式 :ダブルクレードル


キャスター角:26°30′


トレール:85mm


ステアリング切れ角:46°


製造国:タイ
情報提供元: MotorFan
記事名:「 【都心&首都高インプレ】ホンダADV150をたっぷり乗り倒してわかったこと。