REPORT●北 秀昭(KITA Hideaki)
PHOTO●てつかたかし(TESTUKA Takashi)
※月刊モト・チャンプ 2012年12月号より
オーバー1000ccの大排気量エンジンに、ターボチャージャーやスーパーチャージャーなどの過給機を装着。パワーや加速を一気にアップさせるニトロを噴射……。ゼロヨンの世界ではオーバー200馬力は当たり前。
そんなモンスターたちが競い合う、広くて長いステージにおいて、“わずか20数馬力程度”のミニバイクたちが奮闘する。その姿は、「誰でも気軽に遊べるのがミニバイク」という言葉がピッタリと当てはまり、実に微笑ましいもの。(ちなみに20馬力前後で楽しめるのは、長すぎず短すぎない0-200mが一番! という声もあり)。
とはいえ、やはりゼロヨンの面白さは、やっぱり過激な加速が体感できるスリリングさにある。これも事実だ。
それを可能にしたのが、頑丈なNSR用フレームに“ジャストフィットする”、コンパクトな水冷4ストローク単気筒250ccエンジンを流用したゼロヨン仕様のNSR50改。
NSR用フレームは、NSR50とNSR80(50は7.2ps、80は12ps)のノーマルエンジンはもちろん、チャンバー&CDIを交換してパワーアップしたチューニングエンジンでも、卓越した剛性力を誇るのがポイント。その限界力の高さから、サーキットではこれまで数々の栄冠を手にしてきた。
強度の高さでは定評のある、NSR用フレーム。ただしヘビーな重量&ハイパワーな250ccエンジンの搭載となると……。当然、各部に負担が掛かるため、ブラケット追加などによるピボット部の補強、丸パイプや角パイプの追加溶接、純正フレームの再溶接など、ハイレベルなフレーム強化は必須となる。
軽量・ショートホイールベース・12インチ小径ホイールの車体に、ハイパワー&高トルクの4スト250ccエンジンを搭載。その走りは、1速時や2速時、不用意なスロットルワークは、絶対に厳禁! フロントホイールが、いとも簡単に浮いてしまうからだ。このマシンに慣れていても、ウイリーを通り越し、サオ立ち! なんてことは当たり前。それほど走りは過激でシビアになる(そのため、ゼロヨン競技出場時は、ウイリーバーが必須となった)。
スタート時のポイントは、スロットルワークとクラッチミートに神経を注ぎながら、「ジュワ~」と開けてやること。このスリルと過激さは、市販のビッグバイクでは決して味わえないもの。ミニバイクの領域を遥かに超えたパワー、スリル、緊張感が、このNSR50改には存在するのだ。
1998年から2016年まで生産された、カワサキのオフロードモデル「KLX250」。エンジンはロードタイヤを履いたモタードモデル「Dトラッカー」にも搭載された、コンパクトでパワフルな水冷4ストDOHC単気筒4バルブ249cc、ボアφ72×ストローク61.2mmのショートストローク型。圧縮比は11.0。最高出力は24PS/9000rpm。ミッションは6速。車体重量は136kg。
“Nチビ”の愛称で知られるホンダNSR50をベースに、カワサキKLX250用の水冷DOHC4バルブ単気筒250cc(Dトラッカーと同タイプ)をスワップしたこのカスタムは、軽二輪登録済みのため、ストリート走行もこなすのが特徴。
「直線もコーナーもクセなく普通に走ってくれます。車体が軽いですから、スタートダッシュや追い越し加速は過激の一言。青信号発進時の瞬発力は、どのマシンにも負けません」とはオーナー談。
なお、月刊モトチャンプが2017年、独自に250ccスポーツモデル(ノーマル)の0-400mタイムを計測したところ、
・ホンダ CBR250RR(38馬力)……16秒420
・ヤマハ YZF-R25(35馬力)……16秒654
という結果。一方、写真のNSR50改は、
・NSR50改(24馬力)......15秒597
車体の軽さと250ccのエンジンパワーを上手に活かしているのが特徴だ。
最大出力24馬力の「カワサキKLX250」用エンジンをスワップ。NSR50用フレームに、ヘビーな重量&パワフルな他車用エンジンを搭載した場合、「CHOKE」のシール(メインフレーム部の黄色い▽部分)の後方など、溶接部にクラックが入りやすいという。
それを阻止するため、エンジンの固定は、ステップ前方のピボット部に加え、ガソリンタンク下にサブフレームを追加し、“KLX250用エンジンを吊り下げる”ようにセット。また、フレーム各部を徹底補強するなど、安全性もとことん追求している。