REPORT●佐野弘宗(SANO Hiromune)
誰もが認める日産の得意技といえば、言うまでもなく電気自動車(EV)である。2010年に世界初の本格量産EVとして発売された初代リーフと、それに続く二代目リーフが商業的にどれだけ成功したか……についてはいろいろな意見がある。
ただ、少なくとも、すでに10年近くリアルな市場で揉まれてきた実績は、日産EVにしかない財産だ。
2016年にノートで初登場したe-POWERも、モーターやインバーターはリーフ(正確にはどちらも先代リーフからの流用だが、モーターは現行リーフでも変わっていない)のものをそのまま使う。
外部充電できない純ハイブリッド車のe-POWERに当初つけられた“電気自動車の新しいカタチ”というキャッチフレーズについては賛否両論だったが、動力システムのドライバビリティがEVそのものであることは間違いない。
今回の雪上試乗会の特設コースに、日産はリーフとノートe-POWERの4WDを持ち込んだ。日産はこれらを“100%モーター駆動車”と定義して、その強みを「1万分の1秒単位でトルク制御することにより、様々な路面でスムーズに発進・加速を実現」あるいは「低ミュー路でも安心して走行できるワンペダルドライブ」と主張する。
早い話が「雪道とモーター駆動車は相性バツグン」と言いたいらしい。
今回は自然吸気、ターボ過給、間接噴射、直接噴射、3気筒、4気筒、6気筒……と、多様なエンジンを、雪道という路面状況で、代わる代わる走らせることができた。
確かに今どきのよくできた最新過給エンジンに乗れば、過給ラグを意識させられることはほとんどない。しかし、どんなに優秀な過給エンジンでも、自然吸気エンジンと直接乗り比べると、わずかなラグの存在にあらためて気づかされる。
そして、そんな自然吸気エンジン車からリーフに乗りかえたら、そのレスポンス、リニアリティの次元がまるで違っていた。100%モーター駆動のリーフと比較すると、どんなにレスポンシブなエンジン=内燃機関だろうと、右足の動きに対する反応はどうしてもワンテンポ遅れるのだ。
さらに、アクセルペダルに置いた右足指のわずかな力加減に対する反応の“解像度”も、圧倒的にリーフのほうが上と言うほかない。……といった事実は、リーフに乗るたびに感じていたことだが、今回のような低ミュー路では、その恩恵がさらに如実に出てしまう。
■リーフe+ G
全長×全幅×全高:4480×1790×1565mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1680kg
モーター形式:交流同期電動機
最高出力:160kw〈218ps〉/4600-5800rpm
最大トルク:340Nm/500-4000rpm
モーター・駆動輪:F・FWD
駆動用バッテリー:リチウムイオン
総電圧:350V
総電力量:62kWh
サスペンション:Ⓕストラット Ⓡトーションビーム
ブレーキ:ⒻⓇベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:215/50R17
交流電力量消費率(WLTCモード):161Wh/km
航続距離(WLTCモード):458km
車両価格:499万8400円
日産自慢のワンペダルモードにすると、アクセルを踏み込むオン側だけでなく踏み込んだ足を緩めるオフ側も右足に吸いつくようなトルクデリバリーを見せてくれる。
タイヤのグリップ加減を全身で感じ取りつつ、高解像度のアクセルレスポンスで合わせながら走るスラロームは、楽しくてしかたない。こういう路面状況ではブレーキ操作が最も気を使う作業になるが、ワンペダルドライブなら、それも基本的に不要。
もちろん最終的には制動力は自分でコントロールする必要があるが、ブレーキペダルを踏まなくていいと運転中のストレスが飛躍的に減る。
リーフで走ったスラロームコース以上にスピードが乗る周回コースに用意されていた100%モーター駆動車が、ノートe-POWER……の4WD車である。
e-POWERの4WDシステムは、ハードウェアを以前からあるe-4WDのそれを流用している。それはリヤアクスルに小型モーターを追加しただけの電気4WDだが、そのリヤモーターの出力が4.8psであることからも分かるように、そのコンセプトはあくまで、発進時や低速でのスリップを防止するのが主目的の簡便な生活4WDである。
運転席手元のスイッチで“4WD”を選ぶと、発進時は常に4WDとなり、低速走行時は前輪のスリップに応じて後輪トルクを配分するという。
e-POWER+4WDにために用意されたコースはスタート地点があえて登り勾配になっており、最初に2WDで発進しようとすると、前輪がもがいて動き出せない。次に4WDにするとわずかに前輪を掻きながらも、スルリと動き出す。やっぱり4WDっていいなあ。
発進や低速時に特化した生活4WDなので、車速が30km/h以上になると自動的に2WDになる。つまり、ダイナミクス性能をアップさせるようなタイプではない。
よって、コースをガンガン走っている最中は普通のe-POWERとなんら選ぶところはない。しかし、そこは100%モーター駆動、アクセルレスポンスは本物のEVであるリーフに負けず劣らずの高解像度で、低ミュー路での運転がすこぶる楽しい。
■ノート e-POEWR MEDALIST FOUR
全長×全幅×全高:4100×1695×1525mm
ホイールベース:2600mm
車両重量:1310kg
フロントモーター形式:交流同期電動機
最高出力:80kw〈109ps〉/3008-10000rpm
最大トルク:254Nm/0-3008rpm
リヤモーター形式:直流電動機
最高出力:3.5kw〈4.8ps〉/4000rpm
最大トルク:15Nm/1200rpm
発電用エンジン形式:直列3気筒DOHC
排気量:1198cc
ボア×ストローク:78.0×83.6mm
圧縮比:12.0
最高出力:58kw〈79ps〉/5400rpm
最大トルク:103Nm/3600-5200rpm
燃料タンク容量:41L
エンジン・モーター・駆動輪:F・F&R・AWD
サスペンション:ⒻストラットⓇトーションビーム
ブレーキ:Ⓕベンチレーテッドディスク Ⓡドラム
タイヤサイズ:185/65R15
JC08モード燃費:28.8km/L
車両価格:261万6900円
クルマの電動化については、好事家の間で好き嫌いが分かれるのはしかたない。ただ、雪道だけでなくミューの低い悪路全般での電動化のメリットは素直に大きい。
本格SUVのEV……は重量その他の問題でなかなか商品化されにくいが、航続距離うんぬん以前に、素直に乗ってみたいと今回あらためて思った。