日本触媒は、ポリエチレンオキシドを主骨格とするリチウムポリマー電池用の固体電解質を開発し、2013年頃から商業生産を開始した。一般的に、ポリエチレンオキシドのポリマー電解質は、リチウムイオン電池の非水電解液と比較するとイオン伝導度が1桁以上低く、さらにリチウムイオン輸率(※1)が0.1~0.2と低いことから、室温ではリチウムイオンが電解質中を動く速度が非常に遅くなる。そのため、安定した性能を得るためには、電池を50℃以上に加温し、リチウムイオンを動きやすくする必要があった。
ポリマー電解質のリチウムイオン輸率を向上させる取り組みは多数報告されているが、その多くはイオン伝導度を低下させてしまうため、総じて性能を改善するには至っていない。日本触媒は、ポリマー電解質の高性能化を実現するために、同社が独自に開発した新しいイオン伝導のメカニズムを取り入れた。電解質膜中のリチウムイオンを伝搬しやすくした新規電解質膜は、ポリエチレンオキシド系電解質膜と比較すると、同等のイオン伝導度を有しながら、リチウムイオン輸率を5倍以上向上させることに成功した。
新規電解質膜は、リチウム金属に対しての安定性と、4V級正極活物質でも充放電できる耐酸化還元性を有している。
本技術を用いて作製したラミネート型全固体リチウムポリマー電池は、ポリエチレンオキシド系のポリマー電池と比較して、40℃では2倍以上、25℃では5倍以上の放電特性が得られる。性能が飛躍的に向上したことで、従来の全固体ポリマー電池と比較して、充電時間の短縮や、エネルギー密度の向上、電池を加温するための熱源を減らせるなど、多くの改善効果が見込める。
本技術は、全固体ポリマー電池用の電解質膜として、さらには無機電解質の界面形成材などへの活用も目指して、サンプル出荷を進めて用途開拓を行う。
なお、日本触媒は今回の研究成果を2月26日(水)~28日(金)に東京ビッグサイト(青海展示棟)で開催される国際二次電池展の同社出展ブースにて展示する。
※1 イオン伝導度は、電解質膜中を流れることのできる全てのイオン(アニオンとカチオン)の伝導度を示し、イオン伝導度の内、リチウムイオンが担う割合のことをリチウムイオン輸率という。