限られた時間で充実したツーリングを満喫したい……。それに応えてくれるスポットは関東ではいくつもあるが、今回は伊豆・下田まで足を伸ばして沼津で宿泊するというちょっと変わった、ある意味贅沢なプランをチョイスした。果たしてメガーヌR.S.トロフィーで巡る男3人の旅は、想像していたよりも楽しく、思い出深いものとなった。




TEXT : 木原寛明 (KIHARA Hiroaki)


PHOTO : 花村英典 (HANAMURA Hidenori)




※本稿は2020年1月発売の「ルノー・メガーヌR.S.トロフィーのすべて」に掲載されたものを転載したものです。

「ツーリング」に込めた思い

 メガーヌRSトロフィーを取材の合間に自由に乗れることになった。このまたとないチャンスに本誌恒例の「グランドツーリング」に出掛けようと思っていたのだが、翌日の午前中には沼津で取材の約束があり、出発時刻も諸事情により決まっているため、「ツーリング」に許された時間はあまりなかった。一瞬、高速道路を北か西へとひたすら走り1000キロを走破して戻ってくるプランが頭をよぎったが、12月初旬のこと、降雪や路面凍結の心配もあった。それに高速道路だけを走っていたら、RSトロフィーのすべてを知ることはできないと思った。そこで考えたのが、「もしこのRSトロフィーが自分のクルマだとしたら、納車後、まず最初に行きたい場所、走りたい道はどこか?」だった。そしてその答えはすぐに出た。数多くのワインディングロードがある走りの聖地であり、道中の景色の良さも魅力の「伊豆」である。ちょうど翌日は沼津で取材があるから、最終目的地は沼津のビジネスホテルに設定することにした。




 ハイオクガソリンを満タンにして、洗車を済ませてから自宅を出発。助手席に乗る編集仲間のS君と、同じ横浜市内に住むHカメラマンを迎えに行く。心地良いエキゾーストノートとともに目覚めたRSトロフィーで一般道と第三京浜道路を走る。乗り心地は先日乗ったメガーヌ・ルノー・スポールと比べて明らかに固い印象。スプリングレートをフロント23%、リヤ35%、ダンパーレートを25%高め、さらにフロントアンチロールバーの剛性も7%高めた「シャシー・カップ」を採用しているからだが、ルノー・スポール同様に、ダンパー底部に組み込んだセカンダリーダンパーによって最適な減衰力が得られる「4輪HCC」を組み込んでいるため、荒れた路面でも、いわゆるダンパーの底付き感がなく、路面の凸凹で進路を乱されるようなことがほとんどない。これはメガーヌRSのような高性能車にとってツーリング時の大きなメリットになると思った。




 Hカメラマン宅に着き、簡単な挨拶の次に待っていたのは撮影機材の積み込みだ。仕事用の相棒としてトヨタ・クラウンに乗っているHカメラマンがRSトロフィーのラゲッジスペースに手際よく機材を積み込んでいく。余談だが、プロカメラマンの多くは機材の運搬や積み卸しを第三者に手伝わせない。仕事道具がいかに大切なものかを先輩からたたき込まれているのだろう。手際よく三脚や脚立、ストロボ、カメラバッグを運び入れたあと、3人分のお泊まりバッグや取材用の鞄などを放り込んだ。「意外と荷室大きいですね」と編集仲間のS君は驚いた様子だった。

湯河原から熱海まで国道135号線と平行して走る全長6.1㎞の海岸線道路「熱海ビーチライン」。適度なカーブがあり運転していても愉しい。幼少期を鎌倉で過ごした担当者Kと編集者仲間のS君だが、この美しい海には心を惹かれる。

数多くの温泉旅館や観光ホテルが立ち並ぶ熱海は別荘地としても有名。丘の上には豪邸や高級マンションも見受けられる。急な坂道や狭い道も多いため、取り回しのいいクルマが望ましい。メガーヌRSトロフィーの4コントロールは実に有効だった。

 さあ出発だ。時計の針は午前10時を回っている。効率よくドライブしないとホテル入りも遅くなるし、途中何カ所か立ち寄りたいスポットに行けなくなってしまう。本来なら事前にカーナビゲーションに目的地と立ち寄り地をセットしているはずだが、じつはお借りした車両にはオプションのカーナビゲーションが付いておらず、紙の地図を持ってきていた。相棒は硬派なRSトロフィーなわけだし、それも風情があっていいやと思っていたのだが、助手席のS君がそそくさとスマホをUSB端子に繋ぎ、何やらやり始めた。スマホの中のカーナビをトロフィーの7インチタッチスクリーンで使えるミラーリングという機能が使えるのだという。これはしてやられた。さらにS君(身長175㎝)はリヤシートのHカメラマンに気を遣い、「足元、狭くないですか?」と訊く心遣いもみせる。すぐさま「全然大丈夫ですよ」と返ってきた。




 とりあえず最初の目的地を「真鶴」にセットして東名高速道路の横浜青葉インターに向かった。そうして厚木インターから小田原厚木道路を通り、真鶴から伊豆半島を時計回りで進もうという作戦だった。真鶴に何があるのかはわからないのだが、そこで海でも眺めて一休みしようじゃないかと考えていた。車内で次に言葉を発したのは運転席の僕。Hカメラマンに「リヤシートの乗り心地、大丈夫ですか?」と訪ねていた。そして返ってきたのはこんな言葉。「たしかに今時のクルマとしては硬めの乗り心地ですけど、不快になるような硬さじゃありません。むしろ、気持ちよくて眠くなってきますよ」。Hカメラマンはほとんど徹夜でレタッチの作業をしていたようだ。




 真鶴では港に立ち寄り、一息つかせてもらった。あわよくばその辺りで海鮮料理を食べようかとも考えたのだが、先はまだ長い。そう、僕にはどうしても行きたい場所があった。それには後ほど触れたい。さて、次に目指したのは「熱海」である。熱海は交通の要衝ということもあるし、海岸沿いの有料道路「熱海ビーチライン」から見える景色が好きということもある。そして僕にとって熱海はちょっとした思い出の場所でもある。甘酸っぱい思い出の詳細は同乗のふたりには話していないけれど。

日米和親条約(神奈川条約)を締結したペリー艦隊は嘉永7年(1854)3月18日から21日にかけて7隻が下田に順次来航したという。どことなく異国情緒が漂う下田港にメガーヌを止めて、古き時代に思いを馳せる。

疲れ知らずの旅姿三人衆

 熱海を出発し、途中、伊東で小休止して、下田に着いたのは午後2時頃。真鶴から下田までほとんど一気に走りきってしまったのは、ひとえにメガーヌRSトロフィーの運転の愉しさがあってのことだと思う。それに同乗者も疲れたなどとは一言も口にしなかったことも大きい。下田の港にメガーヌRSトロフィーを停めてペリーのことなどに思いを馳せ、その後、下田の道の駅で遅い昼食をとることにした。そこにある回転寿司屋がなぜだかとても気になり、店に入った。まもなく昼の営業時間が終わろうとしていたが歓待を受け、店自慢の金目鯛の棒寿司をはじめとする海の幸を堪能。これが伊豆ドライブの醍醐味のひとつだ。しかも、脂の乗った冬の地魚は絶品。また来たくなる美味さだった。三人衆はエネルギーをチャージして元気倍増だ。




 対してトロフィーのほうはガソリンがあまり減っていないように思える。給油するのはかなり先に行ってからで良さそうだ。伊豆の最南端の下田に来たことで充実感が湧いてきたし、海の景色も満喫した感があった。そこで我々は陸地を通るルートを選び北へ向かうことにした。




 北へ向かうのは、最終目的地の沼津に向かうためであるが、じつはまた別の目的もあった。まず国道414号を通って「天城越え」をすること。その途中にある河津七滝ループ橋を通ること。それから、ちょっと寄り道をして僕のお気に入りのワインディングロードである「西伊豆スカイライン」を走ることである。




 久しぶりに通るループ橋はどことなく遊園地のアトラクションのようでもあり楽しかった。ところで、天城越えには「伊豆の踊子」で有名な旧天城トンネルを通る方法もあるにはあるが、すれ違いが事実上できないような狭いトンネルを通るのはあまりにリスキーなため我々は当然のごとく新道を選んだ。だが天城越えをしたころには日は山の端に隠れ、辺りはだんだんと暗くなってきた。

午後、ようやく昼食にありつけたスタッフ一同。下田の道の駅にある「回転寿司魚どんや」で贅沢をして地魚を使ったお寿司(回転寿司と書いてあるが実際には回転していなかった)を頂いた。とくに金目鯛の炙り棒寿司は脂がのっていて絶品であった。

ハプニングでわかったこと

 そんなとき、ちょっとしたハプニングが発生した。どうやら西伊豆スカイラインへと向かう道を間違えてしまったのだ。案内標識を見て国道414号を左折したところまでは良かったが、そこから道は明らかに狭くなり、ついにはすれ違いもUターンも困難なとても狭いワインディングロード(林道と言ったほうが良いかも知れない)に迷い込んでしまった。おまけに台風19号の影響だと思われる折れた枝や濡れ落ち葉が点在しており、路肩や側溝がほとんど見えないという過酷な状況に追い込まれてしまった。そんな悪条件で頼もしかったのがメガーヌRSトロフィーの極めて明るいLEDヘッドライトとRSビジョンだ。RSビジョンはフォグランプ、ハイビーム、コーナリングランプとして機能する。我々はそれが悪条件になればなるほど威力を発揮することを実感した。




 そんなこんなで30分ほど狭い道を進んだだろうか。ようやく西伊豆スカイラインに繋がる勝手知ったる太い道に出た。ちなみに西伊豆スカイラインとは、静岡県伊豆市の戸田峠(へだとうげ)から達磨山、伽藍山を通り土肥峠を結んで西伊豆の稜線上を走る、総延長約10.8㎞のワインディングロード。天気の良い日中には富士山や駿河湾を望め、平日であれば伊豆スカイラインなどと比べて交通量も多くない。適度なアップダウンと大小さまざまなコーナーがあり、2004年に無料開放されているため料金所もない。ここはメガーヌRSトロフィーで是非とも走りたかった道だ。

河津七滝ループ橋(正式名称は、七滝高架橋という)。全長1064m、高低差45m、直径80mの二重ループ橋である。下田市・河津駅方面からは反時計回りの上り坂、伊豆市・天城トンネル方面からは時計回りの下り坂で、720度・2回転ループする。

翌日の取材後も西伊豆スカイラインへと向かい、メガーヌRSトロフィーのすばらしい走りを堪能した。平日昼間の交通量は少なめだが、過酷なヒルクライムに挑むサイクリストの姿も。スピードに注意し、マナーを守って走行したい。

 標高800メートルの土肥駐車場で記念撮影をすることにした。ふと時間を見ると夕方5時を回っていた。西の空はあかね色に染まっていて、天空には星が輝き始めていた。撮影中、ラリー車と思しき初代インプレッサが現れて、静かにアイドリングを続けていた。それは「早く撮影を終わらせて一緒に走ろうよ」と語りかけているように僕には思えた。もう一箇所、夜景の綺麗な駐車場に場所を変えて撮影をした。学生時代だったらこの時間から朝まで走り回っていただろう。だが今の僕は明日の取材のことや仲間の体調管理を考えて宿泊先の沼津へと向かった。でも歯がゆくはない。それが大人なんだろう。もちろんその道中ではメガーヌRSトロフィーのすばらしい走りを満喫したのは言うまでもない。




 クルマを使った大人の旅では限られた時間を楽しみ尽くすべきだ。移動時間が苦痛だったり、凡庸だったりしたら、旅の魅力は半減してしまう。然らば、仲間とともに愉しめる極上のドライビングプレジャーを持ったクルマこそがふさわしい。我々3人は翌日の取材を終えてからもう一度、西伊豆スカイラインを訪れた。この事実こそがメガーヌRSトロフィーの最大の魅力と言えるのではないだろうか。最後になったが、このクルマの燃費はトータル519.2㎞の旅程で10.54㎞/ℓだった。道に迷ったり、ワインディングロードを2日にわたり満喫したことを思えば立派なものである。

真鶴、熱海を通り下田へと南下。海沿いの景色とグルメを満喫したあとで北上。河津七滝ループ橋を通り、天城越えをして、西伊豆スカイラインへと向かう。ミスコースもあり、到着時間は遅くなったが、伊豆の旅を満喫できた。宿は沼津にとった



西伊豆スカイラインからの帰り道、伊豆中央道にあるドライブイン「いちごプラザ」に立ち寄り、ここでしか変えない土産物を物色。「大福や」で名物のいちご大福などをお土産に購入。朝摘みの大きないちごが入った大福はボリュームも美味しさも満足のいくものだった。

情報提供元: MotorFan
記事名:「 ルノー・メガーヌR.S.トロフィーで伊豆まで贅沢なドライブを味わってみる……飛ばさなくても楽しい、ルノー・スポールのもうひとつの顔