BMEPとはピストンを上死点から下死点までどれだけの圧力で押したかを図る指標で、排気量に依らずシリンダー内の圧力を平均的に示した数字。これによれば、さまざまなエンジンを同一指標で比較することが可能だ。算出方法は以下のとおり。
BMEP=最大トルクNm ÷ 排気量cc × 4π(パイ:円周率) × 10
話題沸騰のトヨタGRヤリスが28.7barという途方もない数値なのは既報のとおり。では各社のフラッグシップカーたちはどんな具合だろうか。
トヨタブランドのフラッグシップスポーツカー。ご存じ、BMW・Z4と基本設計を同一としていて、スープラも搭載エンジンはBMW製のB58型直列6気筒3.0ℓターボ/B48型直列4気筒2.0ℓターボ。3.0ℓのほうは小数点以下1桁で表示すると21.0barとなってしまうことから20.95と2桁で示してみた。なお、2.0ℓ版は190kW/400Nmで25.1bar(SZ-R)。
レクサスのDセグメントクーペ。「F」はコンパクトなRCにV8-5.0ℓエンジンを詰め込んだハイパフォーマンスバージョン。同様の手法がかつてはIS Fとして展開されていた。本機を搭載する他車種としては同じレクサスのLC500が挙げられ、そちらのBMEP値は13.4bar。
突如として現れたスカイラインのハイパフォーマンス版。VQ型でエンジン・オブ・ザ・イヤーを受賞し続けてきた日産が、ライバルに負けない400馬力という数字を叩きだすためにターボ過給とした虎の子がVQ30DDTT。しばらく米国のみの販売だったがようやく日本市場にもスカイラインに搭載されて登場、この400Rは相当の人気を集めていると聞く。
フェアレディZの搭載するVQ37VHRは、国産エンジンの中でも数少ない連続可変リフト/タイミング機構「VVEL」を採用する。バルブのリフトを連続可変させることでポンピングロスを最小限に抑え、スロットルバルブを用いずともエンジンの回転制御を可能とした。NISMOバージョンでは12.7bar、通常版では12.4bar(247kW/365Nm)という数値である。
専用エンジンに専用変速機、専用車台と、日産の技術の粋を集めて登場したのが2008年のこと。VR38DETT型エンジンは、クリーンルームにおける熟練者による手組みが話題のひとつ。GT-R NISMOはターボチャージャーに改良を受けた高出力エンジンを搭載する仕様。なお、通常版は419kW/637Nm:21.1bar。
FF車最速の座をめぐり、ルノー・メガーヌ/フォルクスワーゲン・ゴルフと熾烈な争いを続ける。5代目となる現行型は先代に引き続き英国生産車で、ターボエンジンを搭載する。K20C型はレスポンス重視の高回転志向、シングルスクロールターボを採用するのも過給時の応答性を優先したため。当の生産拠点であるスウィンドン工場の閉鎖をホンダは発表しているが、2021年の期限までは本車も生産を継続する予定。2020年1月初頭にはマイナーチェンジを施された。
ホンダのスーパースポーツ。先代がパッケージングを優先したパワートレインの横配置ミッドシップ車だったのに対して、現行型はパフォーマンスを追求。V6ターボにi-DCD式9速DCTを縦配置ミッドシップし、左右前輪をそれぞれモーターで駆動する3モーター式の「SPORT HYBRID SH-AWD」とした。
水平対向エンジンで全輪駆動というフォーマットを貫き続けるスバルのハイパフォーマンスカーがWRX STI。1989年から続くEJ20型の高過給版を搭載してきたがいよいよ生産中止、エンジンのスイッチが予定されている。なお、EJ20型を載せたファインチューニング限定車555台は「秒の単位で売り切れました」という。
スバルWRX STIのライバルとしてラリーをはじめ、各所でパフォーマンスを競い合った。アクティブヨーコントロールによる旋回性能の著しい向上が本車の技術的トピックのひとつ。ほぼ毎年モデルチェンジを繰り返し、2007年に「エボリューションX」として登場してからは改良を重ね続け、惜しまれつつも2015年に生産販売を終了している。
——とこれまでご覧いただいたように、日本のハイパフォーマンスカーのBMEP値は低め。ターボを用いずに排気量と回転数で馬力を稼ぐ思想が強かったからである。BMEPに着目しはじめると馬力よりもトルク値が気になるようになり、それは実際の運転時にも瞬時の加速性能という効果で現れる。とはいうものの近年はターボ過給のエンジンも増え始め、大トルクを誇るクルマも多くなってきた。上述の計算式からご想像のとおり「排気量が控えめながらトルクが大きいエンジン」が高BMEPの資質。気になるスペックを見つけたらぜひ計算してみてほしい。