中国汽車流通協会(CADA)のまとめた二手車取引件数は2017年が1241万台、18年は1382万台だった。
新車販売は減速したままだが二手車は19年も好調だった。
とくに日本車が人気であり、その残存価値の高さが新車市場での日本車を支えた。
中国自動車市場の価値観の多様化は、日本にとってビジネスチャンスである。
自動車需要が成熟した国・地域では、必ず中古車取引台数が新車販売台数を上回る。居住地の移転やローン返済完了にともなう名義変更なども統計上は中古車取引に入るため、実際の流通量は正確にはつかめないが、日本は新車市場の1.5倍程度、ドイツは約2倍、フランスは2倍強、米国は3倍強という規模である。中国は新車の0.5倍。世界の通例に照らし合わせれば、まだまだ伸びる。
中国の新車と二手車の販売台数合計は2013年に3045万台、17年に4127万台だった。新車の工場出荷台数は15年10月から17年末まで26ヵ月間続いたエンジン排気量1600cc未満車の取得税半減により17年までは毎年前年比プラスだったが、これが終了した18年は28年ぶりに前年比マイナスへと転落した。減税セールが需要を先喰いしてしまったのだ。
しかし、この買い替え促進によって二手車市場には初度登録から3年未満の高年式車が増え、これが二手車人気に貢献した。同時に15年ごろ出現した二手車販売のウェブサイトが、二手車取引の活性化を狙う中国政府が相次いで打ち出した規制緩和の恩恵を受けて表舞台へと躍り出た。その最大手「瓜子二手車」は、19年5月にソフトバンクグループが出資したことで注目された。ここで得た資金を元手に、瓜子二手車を運営する車好多集団は中国全土への二手車販売実店舗の展開に乗り出した。
瓜子二手車のサイトを覗いてみると、さまざまな自動車メーカーのさまざまなモデルが並んでいる。価格、年式、装備仕様、在庫地といった情報がひと目でわかり「質問」を入れることもできる。やはり最後は「現物」であり、車好多集団はオンラインとオフラインの両面作戦に出た。
旧知の中国メディア記者に訊くと、車好多集団は買取車の査定にAI(人工知能)を使っているという。決まった場所を決まった角度から撮影し、約260枚の画像をほかの同一車種の画像と比較し査定を行なう。ここに査定のプロの判断を加えて売価を決める。取扱台数が増えるほど査定は正確になる。調査会社によると、ネットでの二手車取扱台数は19年に300万台に達したそうだ。
こういう話を聞くと昔の取材を思い出す。十数年前、数人の二手車ブローカーを取材したとき、全員が「従業員は必ず着服するから100台以上の在庫は抱えない。自分の目の届く範囲だけで商売する」と言っていた。当時、二手車取引は「交易市場」と呼ばれる店舗が中心だった。2005年9月に二手車流通管理弁法が改正され、交易市場以外でも二手車取引ができるようになったが、公安(警察)とのつながりがある交易市場では犯罪がらみの二手車を買ってしまう心配がなく、その安心感から法改正後も二手車流通の主流だった。
しかし、徐々に二手車オークション(競り市)業者、査定業者、経紀と呼ばれる仲介業者、汽車販売会社が参入し、18年10月に登録地以外での取引が全面解禁されてからはオンライン業者が躍進、業態は一気に多様化した。そして、このなかで興味深い現象が発生した。日本車の人気が上がったのだ。中国人記者諸氏はこう言う。「二手車はトラブルが多いとか、業者は売るだけでアフターケアをしてくれないとか、いろいろな口コミがある。でも日本車は故障が少ないという噂が広まり、サイトへの投稿でも日本車の信頼性の高さが賞賛されている。以前は下取りのことまで考えてクルマを買う人はそれほど多くなかったが、いまや日本車の残存価値が高いことはネットで調べればすぐにわかるようになり、それが新車人気に影響しているのだろう」「住宅価格が上昇中の中国では、新車購入資金を住宅に回す例が増えている。でもクルマは欲しいから故障が少ない日本車の二手車を選ぶ。壊れないに越したことはない。修理に出すと騙されるかもしれないという脅迫観念はいまだ根強い」
実際、19年のCADAデータでは日本車が伸びている。中国汽車工業協会(中汽工)の工場出荷データではドイツ系も伸びているが、年後半はドイツ系の市中在庫が増えた。中汽工まとめの乗用車シェアは、17年に17.1%だった日系が18年に18.8%、19年1~11月は21.6%と上昇を続けている。新車は日本車のひとり勝ちだ。
上海の二手車業者に聞くと、いま中国でもっとも新車から3年後の残存価値が高いのはトヨタ・アルファードだとの答えだった。アルファードは完成車輸入であり、中国では邦貨1000万円を超える。しかし超人気車である。新車から3年後でも残存価格74%が保証されている。中国ブランドの大半が購入後1年でせいぜい60%台ぎりぎりという状況に比べて圧倒的に残存価値が高い。同じトヨタでは新型カムリも残存価格が高い。中型セダンではホンダ・アコードと日産・ティアナも高い。マツダ6は新車から3年を経るとメルセデス・ベンツCクラスよりも値落ちが少なくなる。「日本車は長く乗れる」との認識が、米中貿易戦争下の中国では広まっているようだ。
二手車輸出が19年5月に一部で解禁されたことも日本車人気を引き上げる要因になったと見る販売関係者もいる。昨年中に北京、天津など5市と浙江省、四川省など4省が二手車業務地区に指定され、輸出業者として申請を行なう企業への認可も「驚くほどスムーズに行なわれている」と業者は言う。中国からの主な仕向地は、習近平政権が進める「一帯一路」政策に則り港湾や道路などのインフラ整備を「輸出」してきた新興国だ。近隣ではカンボジア、ミャンマー、極東ロシア、遠くはイランなど中東諸国とアフリカ諸国向けの出荷がすでに実施された。今後は仕向地と出荷台数がどんどん増えると言われている。