2020年2月発売のホンダ新型フィットのプラットフォームは、現行型からキャリーオーバーする。しかし、だからと言ってシャシー性能も現行並み、というわけではもちろんない。シャシー開発のテーマは「低フリクション化」である。

フロントサスペンションは「低フリクション化」

新型フィットのフロントサスペンション

フロントサスペンションの取り付け部

 新型フィットのプラットフォームは、現行型からキャリーオーバーする。キャリーオーバーすると言っても、それは消極的な選択というわけではなさそうだ。




 開発分野が多岐にわたる現在の自動車開発では、1モデルサイクル(たとえば現行フィットなら2013年からだから約8年間だ)では、プラットフォームを完全には熟成できなくなってきている。現行プラットフォームで2代目となる新型で「プラットフォームが持っているポテンシャルをフルに発揮できる(=熟成)」ようになったと考えてもいい。




 新型フィットのシャシーは心地よいをキーワードに乗り心地の大幅向上を図った。そのキモとなるのは、フロントサスペンションの低フリクション化である。ダンパー、スタビライザー、ブッシュ、ボールジョイント、ダンパーとスタビをつないでいるスタビリンク、ロワーブッシュなど、ほぼすべての可動部、締結部の低フリクション化を図ったという。フロントサスペンションの形式は、現行型と同様マクファーソンストラットだ。




 低フリクション化は、細かな路面の凹凸をしなやかに吸収して、ロールやピッチという姿勢をきれいに作り上げるという効果を生んでいる。


 歴代のフィットは、とくにロールしたときにフロント・サスペンションのフリクションが高く、なかなか沈まない、そうすると、フロントとバランスを取るために、リヤのスプリングを固める。すると、結果的に乗り心地が硬くなるという悪循環をしていた。


 新型フィットは、フロントの低フリクション化を図ることによってロールの初期から自然にクルマの頭が入っていくようにした。そうすると無理にリヤのスプリング等を硬める必要がなくなり、トータルで乗り心地の向上が図れる。要


「サスペンションがよく動いているな、と実感してもらえると思います」(エンジニア氏)

リヤサスペンション(TBA)はどう変わった?

リヤは、ホンダが「車軸式」と呼ぶトーションビームアクスル

 今度はリヤサスペンションだ。

 リヤサスペンションは、ホンダが「車軸式」と表記する「TBA(トーションビームアクスル)」である。


 リヤ差スペションは、マウントの構造を刷新している。


 


 現行のフィットから「入力分離」と言って、バンプストップラバーに入るようにような大入力はボディに伝え、ダンパーのロッドから入ってくる入力は、ウレタン部分を伝える、つまり別々の経路で入力を受け止めるという構造をとっている。


 しかし、その前型(つまり2代目)フィットからボディ構造等をあまり大きくと変更することができなかった事情で、「簡易的に」入力分離構造を採っていた。このため、ダンパーを締結する際に、ウレタンを潰す構造になっていて、あまりウレタンの特性・旨味がうまく使えていなかったという。




 新型は、欧州のライバルモデルでも適用しているアルミダイキャスト製ブラケットを用意することで、締結自体はこのブラケット自体に持たせ、いままで通りバンプストップラバーに入る大入力は高剛性のブラケットを通じてボディに伝える。現行型で締結にする際に挟まれていたウレタンに独自の居場所を作ることでウレタンの最も美味しい特性を使えるような構造にした。




「これによって乗り心地の向上だけでなく、操安性の向上にも役立っていると思います」(エンジニア氏)

上級グレードにはVGR(可変ギヤレシオステアリング)を設定

 LUXEのHEVモデルなど一部のグレードで、ステアリング機構にVGRシステムを適用している。VGRとは「可変ギヤレシオ」のことで、は舵角ごとにラックストロークを変化させてステアリングギヤレシオを可変させる。




 小舵角ではゆっくり動いて、大舵角ではクイックになっていく特性だ。駐車場や狭い路地、ランナバウトでは取り回しでは、このVGRで楽になる。またワインディング等の低中速コーナーでは気持ちのよいゆとりのある操舵フィールが得られる。

中央に左右に通る銀色の部品がステアリングラック。電動パワーステアリングはコラムアシスト式だ

「高速道路等ではあんまりフラフラしたくない、そういう時はスローなレシオになっているので、どっしりとまっすぐ走るような操舵フィールを体感できると思います」(エンジニア氏)




 VGRモデルとノーマルでも、トータルのステアリングギヤレシオは変わらない。




 ホンダのエンジニアによると、このクラス(つまりBセグメント)のベンチマークは、これまでは常にVWポロだったのだという。新型でも当然ポロはベンチマークしたが、今回はフランス勢も見るようにしたのだという。つまり、ルノー・クリオ、プジョー208あたりのことだろう。


 コンパクトカーだから、とにかくキビキビ走らせたい、というわけではなく、あくまでも「心地よい走り」「幅広い年齢層が気持ちよく走らせるベーシックコンパクトとしての走り」を意識して開発したように見受けられた。このあたりが新型フィットの走りのキャラクターとなりそうだ。となれば、「RS」グレードがないもの肯け

情報提供元: MotorFan
記事名:「 新型フィットの技術④シャシーはどう進化したか?サスペンションの低フリクション化とは?